全身拡散強調画像(WB-DWI)によるがん検診
全身拡散強調画像(WB-DWI)によるがん検診について
当院では、がんの早期発見に役立つ健診としてMRIを用いた全身拡散強調画像(Whole-body Diffusion-Weighted Imaging: WB-DWI)を行っています。
WB-DWIは、体内の水の動きを画像化することで、細胞が密集した腫瘍組織を見つけやすくする検査方法です。放射線を使わずに全身を確認できるため、繰り返し行う定期的ながん検診にも適しています。ここでは、この検査の役割や特徴、従来のPET検査との違い、得意・不得意ながんや検出率についてご説明いたします。
1. WB-DWIによるがん検診の役割
できること(長所)
- 放射線被ばくがない
レントゲンやCT、PET検査と異なり、放射線を一切使いません。若年の方、定期的な検査が必要な遺伝性がん体質の方にも適した検査です。 - 造影剤を使わずに検査できる
多くの場合、造影剤なしでも十分な病変検出が可能です。造影剤の副作用や腎臓への負担を避けられるのは大きな利点です。 - 全身を一度に確認できる
頚部から骨盤までを一度に撮影でき、複数の臓器を同時に評価できます。 - 早期発見が可能
細胞が密集している腫瘍に敏感に反応するため、小さながんや初期の腫瘍を見つけられる場合があります。
遺伝性腫瘍体質(例:Li-Fraumeni症候群)の方を対象にした臨床研究では、肺の早期がんや脳腫瘍、肉腫などが早期に発見されています。 - 骨や骨髄の病変に強い
前立腺がんや乳がんで多い「骨転移」や「多発性骨髄腫」の検出に優れています。
できないこと(短所・制約)
- 解像度が低い、画像の歪み
呼吸や腸の動きにより、画像がぼやけたり歪んだりすることがあります。 - 小さな肺の病変は苦手
特に数ミリの小さな肺腫瘍は見落としやすい傾向があります。 - 偽陽性の可能性
炎症や良性病変も腫瘍のように写るため、本当はがんではないにもかかわらず「がんの可能性がある」と指摘される場合があります。
このような場合は、がんであるかどうかを明確にするためにCT、超音波、内視鏡などの精密検査が追加で必要になることがあります。
偽陽性は医学的には避けられない側面があり、検査の「感度(見落とさない力)」を高く保つために一定の割合で生じます。したがって、偽陽性=誤りではなく、慎重な確認のための大切なステップとご理解ください。 - 偶発的な所見
良性のしこりや腫瘤も見つかりやすく、不安や結果として必要になる追加検査が負担となる場合があります。 - MRI禁忌の方は施行できません
ペースメーカーや体内金属など、MRI検査そのものが禁忌となる場合には本検査を施行できません。詳細は事前の問診時に安全確認を行います。
2. PET検査との比較(メリット・デメリット)
現在、がん検診のゴールデンスタンダードとされる「FDG-PET/CT検査」と比べたWB-DWIの特徴です。
WB-DWIのメリット
- 放射線被ばくがない
- 造影剤・放射性薬剤を使わないため体に優しい
- 糖尿病の方にも制限なく使用可能
- 骨や骨髄病変の検出に非常に優れる
WB-DWIのデメリット
- 小さな肺がんの検出はPET/CTに劣る
- 良性疾患も“がんのように”写るため偽陽性が多い
- 撮影条件や装置によって画像や数値(ADC値)にバラつきが出る
3. 得意ながん・苦手ながん・検出率
得意ながん・部位
- 骨転移:感度94〜97%、特異度94〜98%と非常に高い。PETより優れる場合もあります。
- 骨髄浸潤(多発性骨髄腫など)
- 悪性末梢神経鞘腫瘍(神経線維腫症に関連)
- 遺伝性高リスク患者の早期がん:ごく初期の肺がんや肉腫を発見した例があります。
苦手ながん・見落としリスク
- 数ミリの肺腫瘍(PETが優勢)
- 正常組織と区別がつきにくい腫瘍(唾液腺、リンパ節、卵巣、腸など)
- 水分を多く含む腫瘍(粘液性腫瘍など):信号が弱くなり見落としやすい
4. 検出率・正診率の具体的データ
- 一般集団(無症状の方)の大規模研究:悪性腫瘍が見つかった割合は1.5% (Radiol Med. 2021 Aug 2;126(11):1434–1450. )
- 骨転移:PET/CTを上回る検出力を示すこともあり
- リンパ腫:病気を見落とす率は低いが、過剰評価する場合がある
- 非小細胞肺がん:DWIとPETはほぼ同等
5. 検査の流れ・当院での取り組み
- 検査時間は約15~20分の比較的短時間で終了します。
- 当院のプロトコルでは、頭部や上肢/下肢は撮像範囲に含まれません。
- 取得したデータは、エムネス社のLookRecを用いてクラウド上で放射線科専門医と共有し、読影を依頼します。
- 検査結果は後日、患者様に郵送でお知らせいたします。
- 万が一、がんの可能性がある病変が見つかった場合には、ご相談のうえ、ご希望に応じた病院へ精密検査依頼の紹介状を作成いたします。
- 当院は全身DWIに関してはMRI検査専門の施設として、がんの診断・治療や精密検査そのものには対応しておりません。精密検査や治療が必要と判断された場合は、当該診療科を有する病院と連携し、ご紹介いたします。
- 通常のMRIと同様、体内に磁性体金属やペースメーカーが入っている方はご利用いただけません。その他の詳細条件はMRIに準じます。
6. 料金について
〈WB-DWIがん検診〉
- お一人で受診の場合:55,000円(税込)
- ペア(ご家族・ご友人と同時)で受診の場合:お二人で88,000円(税込)(お一人あたり 44,000円(税込))
〈脳ドック(脳MRI+MRA)追加オプション〉
- 全身DWIがん検診を受けた方のみ、同日に追加できます。
- お一人分の追加料金:27,500円(税込)
- ペアでの追加料金(お二人分):50,000円(税込)
したがって、ペアで「全身DWIがん検診」+「脳ドック」を同時に受ける場合、合計138,000円(税込)(お一人あたり69,000円(税込))で施行可能です。
〈ご予約に関するご案内〉
- ペアで受診をご希望の方は、それぞれ「全身DWI(WB-DWI)」または「全身DWI (WB-DWI)+脳ドック」の枠をご予約ください。ご来院時に、どなたとペアであるかを受付にお知らせください。
ご一緒の来院日を調整するのが難しい場合でも、前後10日以内のご受診であればペアとして認定いたします。お支払いは別々でも構いません。 - 脳ドックオプションをご希望の方は、MRI検査時間が合計で約30~40分程度かかります。時間に余裕をもってご予約ください。
まとめ
全身拡散強調画像(WB-DWI)は、放射線を使わずに体に優しい検査であり、特に「骨転移」「骨髄病変」「高リスク集団の早期がん」において大きな力を発揮します。
一方で、小さな肺がんや水分を多く含む腫瘍の検出には限界があり、擬陽性(偽陽性)による追加検査が必要となる場合があることをご理解いただくことが重要です。
従来のPET検査と比べると、費用や安全性の面で優れており、がん検診や経過観察の有力な選択肢として重要な役割を果たしています。
よくあるご質問(Q&A)
ここでは、全身拡散強調画像(WB-DWI)によるがん検診について、よくいただくご質問にお答えいたします。
DWIBSと下高井戸脳神経外科クリニックの全身DWIはどう違うのですか?
DWIBS(Diffusion-Weighted Whole Body Imaging with Background Body Signal Suppression)は、Philips社のMRI装置での実装を前提として開発・検証された撮像法です。
当クリニックで使用している富士フイルムメディカル社の装置では、同等の原理に基づく「Whole Body DWI」として実施しており、細かな撮像パラメータは異なりますが、“全身の拡散強調撮像”という点では同等の検査となります。
撮像時間が15〜20分と短いのはなぜですか?
富士フイルムメディカル社のMRI装置では、AI(人工知能)を活用した最新の画像処理技術を用いています。
撮影中に生じるノイズ(画像のざらつき)を自動的に除去し、必要な信号を効率よく引き出すことで、従来よりも短い時間で鮮明な画像を得ることができるようになっています。
そのため、検査時間を15〜20分程度に抑えながら、診断に十分な画質を確保することが可能です。
なぜ料金が安いのですか?
下高井戸でMRIを導入するにあたり、物件オーナー様・管理会社様・富士フイルムメディカル様・リコーリース様をはじめ、多くの方々のご尽力とご支援をいただきました。
また、地域の皆様にもご理解とご支援を賜り、東京電力パワーグリッド様・パナソニックホームズ様のご協力により、立地上困難な電源確保を実現していただきました。
このような多くの方々のお力添えで設置できたMRIを「地域の皆様のお役に立てたい」という思いから、感謝の気持ちを込めた価格設定とさせていただいております。
結果はどのように返却されますか?
撮像した画像データ(CD-R)を含む検査結果一式を後日郵送にてお届けいたします。
結果についてご相談をご希望の場合は、当クリニック外来にて医師がご説明いたします。
なお、脳ドックを同時にお受けいただいた場合には、脳ドックの結果に関してのみ院長が対面で結果をご説明いたします。