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頭痛・めまいと漢方薬 ①

脳疾患の解説  / 頭痛  / めまい

頭痛・めまいと漢方薬
―①日本で発展した漢方の歴史と、知っておきたい使い方―
下高井戸脳神経外科クリニック

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はじめに

天気で悪化する頭痛や、検査では異常が見つからないめまいでお困りの方へ。
頭痛やめまいは、脳神経外科外来で最も多い症状のひとつです。
MRIなどの画像検査で脳出血や腫瘍、脳梗塞といった重大な疾患を除外できたにもかかわらず、「症状が続く」「薬が合わない」「体調に波がある」といったお悩みを抱える方は少なくありません。
そのような場面で、漢方薬は有力な治療の選択肢になります。
本記事を含めここから何本かの記事で、
・漢方はどのような医療なのか
・安全性は大丈夫なのか
・頭痛・めまい・しびれ・外傷後症状にどう使うのか
を、脳神経外科の立場から、エビデンスと安全管理を踏まえてまとめていきます。
構成は
①日本で発展した漢方の歴史と、知っておきたい使い方
②天気で悪化する頭痛に漢方は効く?― 脳神経外科で使う頭痛治療としての漢方薬
③「検査は異常なし」と言われためまいに― 漢方薬を用いためまい治療
④脳神経外科医が漢方を使う理由― 頭痛・めまい・しびれ治療のまとめ
の予定です。

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下高井戸脳神経外科クリニックでの漢方の使い方

当院では、漢方薬を「何となく使う」ことはありません。
• まず詳細な問診、神経学的診察、必要時のMRI検査で器質的疾患を除外します
• 症状の性質、変動(天候・月経・疲労・ストレス)を丁寧に確認します
• 一般的な西洋薬が基本です。医学的に必要な場面で漢方をご提案します
• 効果がなければ漫然と継続せず、見直します
漢方は「最後の手段」ではなく、症状に応じた一つの治療戦略であると考えています。

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目次

漢方は中国の薬?日本の薬?

漢方薬というと「中国の薬」「民間療法」という印象を持たれる方も多いかもしれません。

起源と発展

• 漢方のルーツは、5~6世紀に中国から伝来した医学です
• その後、日本の風土や日本人の体質に合わせて独自に発展しました
• 江戸時代には「腹診」や「方証相対」といった、日本独自の診断体系が確立されました

中医学(TCM)との違い

• 中国の中医学:理論(陰陽五行説など)を重視
• 日本の漢方:症状と処方を直結させる実証的な医学

現代の漢方

現在、日本の医療機関で使われている漢方薬は、
• 医薬品医療機器等法に基づく医療用医薬品
• GMP(製造管理・品質管理)下で製造
• 148処方が保険診療で使用可能
つまり、漢方は
「日本で完成した、現代医療の一部」
と位置づけるのが正確です。

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漢方薬はいつでも安全?

漢方薬は「生理活性物質」を含む医薬品

漢方薬は自然由来の生薬から作られていますが、「生理活性物質」を含む医薬品であり、副作用は存在します。
漢方薬は自然界の生薬に含まれる膨大な種類の化学成分が、からだの特定の部位や機能に働きかけることで生理学的な反応を引き起こし、効果を発揮します。

脳神経外科で実際に使われているエビデンス

例えば五苓散は、脳内の水のチャネル(細胞の水などが通る“通り道”)であるアクアポリン4の働きを抑制することで、脳浮腫や水腫の改善に寄与します。
私たち脳神経外科医も、慢性硬膜下血腫の患者様に血腫の吸収を期待して実臨床で使用しています。(症例報告レベルで有効性が示されています。)
西洋薬が通常「1つの有効成分が1つの標的にピンポイントで作用する」のに対し、漢方薬は複数の生薬が組み合わさった「カクテル」のような薬です。

漢方薬の主な副作用

• 偽アルドステロン症(甘草を含む場合)
✓ むくみ、血圧上昇、低カリウム血症
• 間質性肺炎(主に黄芩含有製剤で多く報告されており、脳神経外科領域で処方されることがある芍薬甘草湯や牛車腎気丸などでも注意喚起があります)
✓ 咳、息切れ、発熱
• 肝機能障害
✓血液検査でAST・ALT上昇
• 腸間膜静脈硬化症
✓山梔子を含む処方の長期投与で報告

注意が必要な方

• 高齢者(生理機能低下)
✓多くの漢方製剤の添付文書において、高齢者には「減量するなど注意すること」と明記されています。
• 利尿薬を使用している方
✓ 利尿薬を使用している場合、最も注意すべきは甘草(主成分:グリチルリチン酸)を含む漢方薬との併用です。ループ系利尿剤(フロセミド等)やチアジド系利尿剤は、尿細管でのカリウム排泄を促進します。一方、甘草に含まれるグリチルリチルリチン酸も同様にカリウム排泄を促進する作用があるため、これらを併用すると血清カリウム値の低下が加速される恐れがあります
• 妊娠中・授乳中の方
✓ 妊娠中や授乳中の方に漢方薬を使用する際は、「治療上の有益性が危険性を上回るか」という判断とともに、特定の生薬による胎児への影響や乳児への移行に十分な注意が必要です
o とくに避けるべき(慎重を要する)主な生薬と処方:
✓ ダイオウ(大黄): 子宮収縮作用や骨盤内臓器の充血作用があるため、妊娠中の投与は望ましくありません(例:治打撲一方)。
✓ ボタンピ(牡丹皮): 流早産の危険性があるため、これを含む製剤は投与しないことが望ましいとされています(例:加味逍遙散、桂枝茯苓丸、牛車腎気丸)。
✓ トウニン(桃仁): ボタンピと同様に流早産のリスクがあるとされています(例:桂枝茯苓丸)。
✓ ゴシツ(牛膝): 流早産の危険性があるため、注意が必要です(例:牛車腎気丸)。
✓ ブシ末(附子末): 副作用があらわれやすくなるため、避けるべきとされています(例:牛車腎気丸)。

当院の考え方

• 「天然だから安全」とは考えません
• 少量・必要最小限から開始
• 異変があれば速やかに中止・再評価します

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漢方薬は複数一緒に飲めるのか?

結論から言うと、複数の漢方薬を自己判断で併用することはおすすめできません。
複数の漢方薬を併用すること自体は可能ですが、同じ成分(構成生薬)が重複する場合には、副作用のリスクを高める可能性があるため注意が必要です。
特に重複に注意し、避けるべき、あるいは慎重に判断すべき組み合わせの要点をまとめます。

1. 重複に特に注意すべき生薬

以下の生薬が含まれる処方同士を組み合わせる場合は、1日あたりの総摂取量が増えすぎないよう注意が必須です。
甘草(カンゾウ): 最も重複しやすい生薬です。多くの漢方薬に含まれており、重複して摂取(目安として1日量で数グラム以上)すると、偽アルドステロン症(血圧上昇、むくみ、低カリウム血症)やミオパチー(手足の脱力、筋肉痛)を引き起こす恐れがあります。
附子(ブシ): 牛車腎気丸(107)などに含まれます。重複すると、動悸、のぼせ、舌のしびれ、悪心などの副作用があらわれやすくなります。
大黄(ダイオウ): 治打撲一方(89)などに含まれます。重複すると、腹痛や下痢を引き起こす可能性があるため、特に注意が必要です。
山梔子(サンシシ): 加味逍遙散(24)や加味帰脾湯(137)に含まれます。これらを含む製剤を5年以上など長期にわたって併用・服用すると、腸間膜静脈硬化症(腹痛、下痢、便秘など)のリスクが高まることが報告されています。

2. 避けるべき・注意すべき組み合わせの例

資料に基づき、具体的な注意が必要なケースを挙げます。
• 「甘草」を含む処方同士の併用:
◦ 例:芍薬甘草湯(68) + 加味逍遙散(24) + 加味帰脾湯(137)
◦ とくに芍薬甘草湯は1日量で甘草を6.0gも含んでおり、他の甘草含有製剤と合わせると容易に過剰摂取となります。
• 「大黄」を含む処方同士の併用:
◦ 下剤としての作用が強く出すぎるため、個人の体質(証)に合わせて用量を厳密に調整する必要があります。
• 「附子」を含む処方同士の併用:
◦ 体力が充実している人(実証)や暑がりの人には、副作用が強く出やすいため推奨されません。

3. 当院の方針・安全管理のポイント

併用を検討する際は、以下のステップで安全を確認します。
1. 構成生薬の総量確認: 処方カクテルの設計図をチェックするように、各処方の添付文書にある「組成」を確認し、特に甘草の合計量を確認します。
2. 初期症状のモニタリング: 「手足に力が入らない」「血圧が上がってきた」「体がむくむ」といったサインがないか注意深く観察します。
3. 定期的な検査: 特に利尿剤などと併用する場合は、血液検査でカリウム値に異常がないか定期的に確認します。
例えるなら漢方の併用は、「いろいろな絵の具を混ぜて一つの色を作る」ようなものです。一色一色は魅力的でも、特定の強い色(甘草や大黄など)が重なりすぎると、全体の色合い(体調)が一気に濁ってしまうことがあります。全体のバランスを「総量」で捉え、特定の色の効きすぎ(副作用)に注意を払うことが大切であると考えています。

Q and A

漢方は中国の薬?日本の薬?

漢方薬というと「中国の薬」「民間療法」という印象を持たれる方も多いかもしれません。
起源と発展
• 漢方のルーツは、5~6世紀に中国から伝来した医学です
• その後、日本の風土や日本人の体質に合わせて独自に発展しました
• 江戸時代には「腹診」や「方証相対」といった、日本独自の診断体系が確立されました
中医学(TCM)との違い
• 中国の中医学:理論(陰陽五行説など)を重視
• 日本の漢方:症状と処方を直結させる実証的な医学
現代の漢方
現在、日本の医療機関で使われている漢方薬は、
• 医薬品医療機器等法に基づく医療用医薬品
• GMP(製造管理・品質管理)下で製造
• 148処方が保険診療で使用可能
つまり、漢方は
「日本で完成した、現代医療の一部」
と位置づけるのが正確であると考えています。

漢方薬はいつでも安全?

漢方薬は自然由来の生薬から作られていますが、「生理活性物質」を含む医薬品であり、副作用は存在します。
漢方薬は自然界の生薬に含まれる膨大な種類の化学成分が、からだの特定の部位や機能に働きかけることで生理学的な反応を引き起こし、効果を発揮します。
例えば五苓散は、脳内の水のチャネル(細胞の水などが通る“通り道”)であるアクアポリン4の働きを抑制することで、脳浮腫や水腫の改善に寄与します。
私たち脳神経外科医も、慢性硬膜下血腫の患者様に血腫の吸収を期待して実臨床で使用しています。

漢方薬は複数一緒に飲めるのか?

結論から言うと、複数の漢方薬を自己判断で併用することはおすすめできません。
複数の漢方薬を併用すること自体は可能ですが、同じ成分(構成生薬)が重複する場合には、副作用のリスクを高める可能性があるため注意が必要です。

受診をご検討の方へ

下高井戸脳神経外科クリニックは、東京都杉並区・世田谷区・渋谷区西部を中心に、京王線(下高井戸・明大前・桜上水・千歳烏山・上北沢・八幡山・芦花公園・笹塚・代田橋)、京王新線(幡ヶ谷・初台)、東急世田谷線(松原・山下・宮の坂)、小田急線沿線(代々木上原・東北沢・下北沢・世田谷代田・梅ヶ丘・豪徳寺)、渋谷区西部(上原・大山町・西原・本町)から通院しやすい立地にある脳神経外科専門クリニックです。
頭痛・めまい・しびれ・脳梗塞後の経過観察などを中心に、日本脳神経外科学会専門医である院長が、診察から検査結果の説明まで一貫して対応しています。
初診枠をご予約のうえご来院いただいた場合、症状と診察所見から医学的に必要と判断され、かつMRI検査の禁忌事項がない場合には、当日中にMRI検査および結果説明が可能です(土曜日も17時開始枠まで初診予約が可能です)。
詳しいアクセス方法は、サイト内のアクセス案内をご覧ください。
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参考文献

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医療用漢方製剤 添付文書(株式会社ツムラ)
19. ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒(医療用)添付文書.
20. ツムラ五苓散エキス顆粒(医療用)添付文書.
21. ツムラ当帰芍薬散エキス顆粒(医療用)添付文書.
22. ツムラ加味逍遙散エキス顆粒(医療用)添付文書.
23. ツムラ桂枝茯苓丸エキス顆粒(医療用)添付文書.
24. ツムラ呉茱萸湯エキス顆粒(医療用)添付文書.
25. ツムラ半夏白朮天麻湯エキス顆粒(医療用)添付文書.
26. ツムラ苓桂朮甘湯エキス顆粒(医療用)添付文書.
27. ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)添付文書.
28. ツムラ治打撲一方エキス顆粒(医療用)添付文書.
29. ツムラ牛車腎気丸エキス顆粒(医療用)添付文書.
30. ツムラ加味帰脾湯エキス顆粒(医療用)添付文書.
Webサイト
31. 株式会社ツムラ. 漢方は日本育ち. 漢方の特徴 [Internet]. 東京: 株式会社ツムラ [cited 2024]. Available from: https://www.tsumura.co.jp/kampo/feature/ikudachi/
32. 株式会社ツムラ. 漢方の歴史 [Internet]. 東京: 株式会社ツムラ [cited 2024]. Available from: https://www.tsumura.co.jp/kampo/history/
33. 株式会社ツムラ. いろいろな顔を持っている漢方. 漢方の特徴 [Internet]. 東京: 株式会社ツムラ [cited 2024]. Available from: https://www.tsumura.co.jp/kampo/feature/variation/
34. 株式会社ツムラ. 漢方は自然の恵み. 漢方の特徴 [Internet].

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