もやもや病・頭蓋内動脈狭窄|MRI診断
東アジアに多い「もやもや病」―欧米とは異なる脳血管疾患
10年ほど前、ヨーロッパで開催された脳卒中関連の国際学会で、韓国の脳神経外科医による招待講演を拝聴した際のやり取りを今でも鮮明に覚えています。講演後の質疑応答の場面で、ひとりのアジア系の若い医師が「欧米ではなく、韓国からこのような素晴らしい業績を挙げるにはどうしたら良いのでしょうか?」と問い掛けました。それに対して、そのスピーカーの先生は「米国・欧州のシステムや研究資金にはかなわない。だからこそ、我々アジア人に多く、欧米人に少ない疾患を真摯に見つめ、患者さんのために追究しなさい」と回答されました。この言葉に強く心を動かされ、以来私は“もやもや病”という疾患にそれまでよりもさらに一層向き合うようになりました。
もやもや病とは?―頭蓋内内頚動脈終末部の進行性動脈狭窄
もやもや病(Moyamoya disease)は、1960年代に東北大学の鈴木二郎先生によって報告され、脳血管撮影で“もやもや”と煙のような血管網が見えることから命名された、本邦からはじめて世界に報告された疾患です。主に内頚動脈終末部が進行性に狭窄・閉塞し、その代償として脳底部に細く脆弱な側副血行路が発達します。東アジア人に多く、欧米では稀という特徴があり、日本・韓国・中国などに症例が集中しています。
症状は、脳梗塞を起こす虚血型と、脆い血管が破れることによる脳出血型に大別されます。しかし、中には無症候(MRI検査で偶然見つかる)のまま長年過ごされる方もおり、すべての患者さんが直ちに治療を要するわけではありません。
もやもや病で行われる治療:EC-ICバイパス(STA-MCA吻合)
虚血型に対しては、古くから血行再建術が行われており、代表的なものが頭皮を走行する浅側頭動脈(STA:こめかみを指で触れるとどくどくする血管です)と中大脳動脈(MCA)の末梢を吻合する EC-ICバイパス手術(STA-MCA吻合術)です。これは頭皮の血管を脳表の血管につなぎ、新たな血流ルートを作る「直接血行再建術」となります。その他、筋肉や骨膜など血流豊富な組織を脳表に接着させ、新生血管を誘導する「間接血行再建術」、この2つを組み合わせた「複合再建術」などがそれぞれの施設のPhilosophyを持って実施されています。
Japan Adult Moyamoya TrialとAMORE研究から見えたこと
もやもや病に関しては本邦においていくつかの重要な多施設共同研究が行われており、その結果が世界へ向けて発表されています。
Japan Adult Moyamoya Trial(JAM trial)では、出血型もやもや病に対するEC-ICバイパス手術が再出血リスクを減少させ得ることが示され、とくにChoroidal anastomosis(脳後方側副血行路)が発達している症例ほど効果的であることが分かりました。さらにAMORE研究では、①無症候でも年間1%程度の脳卒中リスク(特に出血)を抱えること、②Choroidal anastomosisや脳MRIでの微小出血がリスク因子となり得ること、③若年発症例と高コレステロール血症は病態進行と関連していることが報告されています。
その他の頭蓋内動脈狭窄:twig-like MCAと動脈硬化
一方、成人の頭蓋内動脈狭窄では、もやもや病ではなく、twig-like MCA(本来1本である中大脳動脈が細い枝状に再構築される状態で先天性と考えられています)やアテローム性動脈硬化(動脈硬化)による血管狭窄の結果頭蓋内動脈が狭窄している場合があります。これらの鑑別には①狭窄の部位が重要で、②血管の外径を評価することが大切で、③経時的変化を追うことも有用です。MRIの検査では血管の内腔(血液が流れている部分)を見るためのMRA(TOF)の他に、血管の外径を見る方法(FIESTA)があります。下高井戸脳神経外科クリニックでもこれらの検査が可能です。頭蓋内動脈狭窄に関してはその原因により治療方法、場合によっては治療必要性の有無まで変わってきますので、治療方針決定には十分な検査と慎重な結果の検討が必要になります。
2023年、岩手医科大学の先生方が「Neurological Research誌」において、「もやもや病の成人患者で、脳血管造影において病状の進行が見られない場合、血管造影で進行が見られる患者よりも、最初の脳血管イベントの発症時にはアテローム性動脈硬化の負担がより強く影響しているようであるから、脳血管造影で進行が見られない患者に対して薬物療法でアテローム性動脈硬化の負担を軽減することは、その後の脳血管イベントを予防し得る」という内容の報告を発表されました。このような症例では高血圧・高脂血症・糖尿病といった動脈硬化危険因子の是正が、その後の脳卒中予防に極めて重要となります。
下高井戸脳神経外科クリニックでの対応―MRIによる評価と病院との連携
当院(京王線・東急世田谷線「下高井戸駅(世田谷区松原)」徒歩2分、東京都杉並区)はクリニックでの外来診療のみのため、手術そのものや脳血流検査(SPECT/PET)は行っておりません。しかし、頭部MRI・MRAによるChoroidal anastomosis・微小出血・頭蓋内動脈狭窄(twig-like MCA含む)の評価は可能であり、術適応の判断や病院への紹介、無症候例の継続的なフォローアップを行って参ります。
MRI検査で偶然もやもや病や頭蓋内動脈狭窄を指摘された方の中には、大きな不安やショックを受けられる方もいらっしゃいます。しかし、私は「早く見つかったからこそ、予防につなげることができると前向きに考えていきましょう」とお伝えしています。具体的には、生活指導、動脈硬化予防としての適切な血圧(頭蓋内動脈狭窄に急激で過度な降圧を行うと脳梗塞のリスクがあり危険です)・コレステロール管理、MRI定期チェック等がクリニックでお手伝いできる内容になります。
小児期と成人期で異なる注意点
もやもや病は10歳未満の小児期と30〜40歳の成人期に好発します。私が勤務医時代に所属してい施設では、小児期の患者様は小児脳神経外科のエキスパートが治療を行っておりました。小児期のもやもや病は成人期と異なる病態・進行パターンを示すため、下高井戸脳神経外科クリニックでは成人期のもやもや病・頭蓋内動脈狭窄症患者様のフォローアップを行い、小児の場合には専門医療機関をご紹介しております。
まとめ ― 京王線沿線で「近くの脳神経外科」としてできること
もやもや病、動脈硬化性の頭蓋内動脈狭窄症、twig-like MCAなどは、いずれもMRIによる適切な診断と継続的な経過観察が非常に重要です。京王線・世田谷区・杉並区周辺で脳神経外科の受診をご検討の方、あるいは他院MRIで異常を指摘され「どこに相談すればよいか分からない」という方は、ぜひ一度下高井戸脳神経外科クリニックへご相談ください。
「近くの脳神経外科」として、専門医が丁寧に診察・説明し、必要に応じて病院と連携を図りながら、患者様一人ひとりに適切な医療をご提供して参ります。