ガルカネズマブ(エムガルティ®)による片頭痛の予防治療について
ガルカネズマブ(エムガルティ®)
下高井戸脳神経外科クリニックでは、片頭痛でお困りの患者さんに対し、発作を和らげる急性期治療と、発作自体を起こりにくくする予防治療の双方からアプローチしています。本稿では、片頭痛治療の全体像と、特に注射の予防薬であるガルカネズマブ(エムガルティ®)の作用や臨床試験結果、安全性、費用をまとめます。さらには今後臨床での活躍が期待される経口CGRP受容体拮抗薬についても紹介しています。

片頭痛の急性期治療(発作時の治療)
急性期治療とは、片頭痛が起きた「その時」に痛みを抑える治療です。痛くなった時に内服する薬を「頓用薬」といいます。
急性期薬は種類により多少の例外はありますが、基本的には「痛くなったらすぐに服用する」ことで最も効果が期待できます。「痛くなったら」なので、痛くなる前の予兆の段階で服用すると内服のタイミングが早すぎて効果が弱いこともあります。また、頓用薬の使いすぎは薬剤乱用性頭痛(MOH)の原因となることがあります。
急性期治療の頓用薬には以下のようなものがあります。
- ● NSAIDs(イブプロフェン、ロキソプロフェン等)
軽度〜中等度の頭痛でまず試みる薬です。 - ● トリプタン(スマトリプタン、リザトリプタン等)
中等度〜重度の片頭痛の第一選択薬で、セロトニン(5-HT)受容体作動薬です。
5-HT1B:血管収縮
5-HT1D:CGRP放出抑制
血管収縮作用があるため、心疾患・脳血管障害・コントロール不良の高血圧では使用できません。 - ● ラスミジタン(ditan系 / 5-HT1F選択的作動薬)
血管収縮作用がなく、心血管リスクのある患者にも使いやすい一方、ふらつきの副作用が比較的多い薬です。 - ● リメゲパント(gepant系)
日本で承認済みの経口CGRP受容体拮抗薬です。
血管収縮作用がなく、トリプタン禁忌の患者にも使用可能。
口腔内崩壊錠で水なしで服用できます。
海外では1回の投与で48時間鎮痛作用が持続した例が多数報告されています。
片頭痛予防治療(発症を減らす治療)
予防治療の目的は、「片頭痛の回数を減らし、生活の質を大きく改善すること」です。
予防治療を検討する目安
- 頭痛が月4日以上
- 強い頭痛が月3日以上
- 急性期薬を月10日以上使いそう
- 日常生活・仕事・学業に支障がある
- 片麻痺性片頭痛、遷延性前兆など特殊な片頭痛
片頭痛発症を減らす予防薬
- ロメリジン(Ca拮抗薬):血管の過剰反応を抑える
- プロプラノロール(β遮断薬):交感神経を抑え頭痛を予防
- バルプロ酸(抗てんかん薬):神経の興奮を安定させる
- アミトリプチリン(抗うつ薬):痛みの神経回路を抑える
- 抗CGRP抗体(注射):頭痛の根本物質CGRPを阻害
エムガルティ®(ガルカネズマブ)/アジョビ®(フレマネズマブ)/アイモビーク®(エレヌマブ)
エムガルティ®(ガルカネズマブ)の作用と適応
エムガルティ®は、片頭痛の中心物質であるCGRPに直接結合し、その働きを阻害する抗体製剤です。
日本での適応
片頭痛発作の発症抑制
最適使用ガイドラインでの対象
- 月に複数回の片頭痛
- 慢性片頭痛
- 従来の予防薬で効果が不十分
- 副作用や禁忌で従来薬が使いにくい場合
- 非薬物療法や急性期治療だけでは不十分
エムガルティ®の臨床試験(CGAN試験・CGAW試験)
エムガルティ®の有効性は CGAN(日本)・CGAW(国際)で検証されました。
主要評価項目はいずれも「月間片頭痛日数の変化」です。
CGAN試験(日本)
- 対象:日本人、月4日以上の反復性片頭痛
- 方法:初回240mg → 120mg/月、プラセボ対照二重盲検、6か月
- 結果:ベースライン8.6 ± 2.8日 → 平均 3.6日減少
イメージ:「月8~9日の片頭痛が5~6日に減る」
CGAW試験(国際)
- 対象:既存予防薬が不十分、月4日以上、日本人42例含む
- 方法:初回240mg → 120mg/月、プラセボ対照二重盲検、3か月
- 結果:ベースライン13.4 ± 6.1日 → 平均 4.1日減少
イメージ:「月13~14日の片頭痛が10日程度に減る」
プラセボ・二重盲検とは?
プラセボ(偽薬)
見た目は薬と同じですが、有効成分を含まないものです。心理的効果を除き、純粋な薬の効果を評価できます。
二重盲検
本物かプラセボか、患者と医師の双方が分からない状態で行う試験方法です。科学的信頼性が最も高い評価方法です。
副作用(エムガルティ®)
- 注射部位疼痛(10.1%)
- 注射部位反応(紅斑、そう痒感、内出血、腫脹等)(14.9%)
全身性の副作用は比較的少ないです。
費用(保険診療/3割負担)
薬価は42,638円(2025年11月現在)。
3割負担の場合の自己負担は約12,800円/月です。
初回のみ2本投与のため約25,600円前後となります。
※薬価は改定により変更される可能性があります。
今後期待される治療 — リメゲパント(ナルティーク®OD錠)
エムガルティ®は、片頭痛の中心物質であるCGRPに直接結合し、その働きを阻害する抗体製剤ですが、新しい(2025年11月18日現在まだ処方できません)片頭痛の内服薬であるリメゲパント(ナルティーク®OD錠)は、CGRP受容体に直接作用する新規gepant系薬剤で、
- 急性期治療として有効(トリプタン禁忌でも使用可能)
- 隔日投与で予防治療としても効果
- 飲み薬で注射が苦手な方にも使いやすい
- といった特徴があるため、飲み薬で急性期と予防の両方に使える新しいカテゴリーとして期待されています。
エムガルティ®の群発頭痛への効果(国際データ)
日本におけるエムガルティ®の適応は片頭痛のみですが、国際報告では群発頭痛の発作抑制に有効とされています。群発頭痛の急性期治療としてはスマトリプタン皮下注が第一選択です。
在宅自己注射について(当院の運用)
エムガルティ®は在宅自己注射も可能です。当院では、
- 最初の3か月(3回)はクリニックで注射し、その間に手技を丁寧に指導
- 4回目以降は希望に応じて、ご自身での在宅自己注射が可能
エムガルティ®は冷蔵保管し、使用前に室温に戻します。器具の再使用はできません。
エムガルティ®導入の評価方法(当院)
導入前後で以下を確認し、治療効果を客観的に評価します。
- HIT-6(生活の影響スコア)
- 頭痛日誌
- 急性期薬の使用回数
- 予防薬の効果・副作用・禁忌
よくあるご質問(Q&A)
エムガルティ®はどんな方が使用できますか?
本邦での適応は「片頭痛発作の発症抑制」です。月に複数回の片頭痛がある方、既存の予防薬で効果が不十分な方、副作用で従来薬の継続が難しい方が対象となります。HIT-6や頭痛日誌、急性期薬や予防薬の使用状況から慎重に適応を判断します。
アジョビ®やアイモビーク®も使えますか?
はい。当院ではフレマネズマブ(アジョビ®)やエレヌマブ(アイモビーク®)も処方可能です。作用点や投与間隔が異なるため、生活スタイルに合わせて選択できます。
エムガルティ®の費用はどのくらいですか?
薬価42,638円で、3割負担では約12,800円/月です。初回は2本投与のため約25,600円前後になります(薬価改定により変動の可能性があります)。
どれくらいで効果が出ますか?
臨床試験では1か月目から改善がみられる方が多く、中には翌日から効果を実感される方もいらっしゃいます。ガイドラインでは最初の3か月で効果判定を行います。
急性期薬(トリプタン・ロキソニン等)と併用できますか?
はい、併用できます。エムガルティ®は予防薬のため、発作時には従来どおり頓用薬を使って問題ありません。ただし頓用薬の使いすぎは薬剤乱用性頭痛のリスクがあるため注意が必要です。
在宅自己注射が不安です。続けられますか?
当院では最初の3回をクリニックで行い、その間に丁寧に指導します。4回目以降はご希望に応じて在宅自己注射が可能です。
他の予防薬(ロメリジン・バルプロ酸等)と併用できますか?
はい、併用可能です。症状が安定してきた場合には、医師と相談しながら薬を減らすことも可能です。
▼ まとめ
本記事では、片頭痛治療の基本である「急性期治療」と「予防治療」を整理し、とくに予防薬のエムガルティ®(ガルカネズマブ)について、その作用、適応、効果、安全性、費用をわかりやすくまとめました。急性期にはNSAIDsやトリプタン、ラスミジタン、リメゲパントなどが選択肢となり、予防治療では月4日以上の頭痛や生活への影響が目安となります。エムガルティ®はCGRPに結合して片頭痛の回数を減らす注射薬で、国内外の臨床試験で明確な効果と良好な安全性が示されています。下高井戸脳神経外科クリニックでは在宅自己注射にも対応し、導入前後にはHIT-6や頭痛日誌などで客観的に経過を確認しています。
本記事ではエムガルティ®を中心に片頭痛治療をまとめましたが、症状や生活への影響はお一人おひとり異なります。当院では、丁寧な問診とMRIを含めた精密評価を行い、お悩みに合わせた最適な治療をご提案しています。片頭痛でお困りの方は、ぜひ一度下高井戸脳神経外科クリニックの頭痛外来へご相談ください。
下高井戸脳神経外科クリニックは東京都区部西部、京王線(千歳烏山、上北沢、八幡山)、東急世田谷線沿線(松原、山下、豪徳寺)、杉並区南部(下高井戸、永福、和泉、浜田山)、世田谷区北東部(赤堤、松原、羽根木、下北沢、梅が丘、代田)、渋谷区西部(笹塚、幡ヶ谷、代々木上原)からアクセス良好な地域の脳神経外科専門クリニックです。
当日ご来院予定時刻の1時間前まで予約可能な初診枠をご予約のうえご来院頂いた場合、ご希望と必要性があり、検査の禁忌事項がない場合、当日中のMRI検査と日本脳神経外科学会専門医の院長による結果説明が可能です。土曜日午後も17時からの診療枠まで予約が可能です。
頭の不安や症状をその日のうちにできるだけ解決するお手伝いをさせて頂きます。
脳に関するご不安がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。


