シニア世代の「めまい」・「ふらつき」の原因は?
検査では異常がないと言われためまい

― シニア世代に多い「ふらつき」の原因は ―
下高井戸脳神経外科クリニックには、
- 「耳鼻科で診てもらったが、特に異常はないと言われた」
- 「ぐるぐる回るめまいではないが、ふらふらする」
- 「歩いていると不安定で、転びそうになる」
といったシニア世代の方からのめまいのご相談がしばしば寄せられます。
診察させて頂くと、
- 目が揺れるような眼振(がんしん:めまいの原因となる目の不随意な動き)は見られない
- 手足の麻痺や、はっきりした神経の異常もない
- MRIでも、脳梗塞や脳腫瘍といった重大な異常は見つからない
一方で、
- Romberg試験(ロンベルグ試験:目を閉じて立ったときに体がふらつくかを見る検査)では不安定になる
という方が少なくありません。
このような状態は、
決して「気のせい」でも「問題がない」わけでもなく、
シニア世代に特有の、医学的に説明できるめまいの病態であることが分かってきています。
下高井戸脳神経外科クリニックでできること
当院では、
- MRIで「めまい」や「ふらつき」の原因となる脳の重大な病気を除外
- 神経学的診察を重視した評価
- 「MRIでは異常ありません」で終わらせないご説明
- 続けられる現実的な対策の提案
を大切にしています。
「年のせいだから仕方ない」と諦める前に、
どうぞ一度ご相談ください。
診療のご予約はこちらから。
目次
- 検査では異常がないと言われためまい ― シニア世代に多い「ふらつき」の原因とは ―
- シニア世代のめまいは「一つの病気」とは限りません
- なぜシニア世代では原因が一つに決まらないのでしょうか
- Presbyvestibulopathy(加齢性前庭機能低下)とは
- Romberg試験が陽性になりやすい理由
- シニア世代のめまいをつくる複数の要因
- なぜMRIだけでは原因が分からないのでしょうか
- 治療の考え方 ―「治す」より「安定させる・転ばせない」―
- 椎骨脳底動脈循環不全(VBI)との違い
- 受診をお考えの方へ
- 参考文献
- 本記事の執筆者について
検査では異常がないと言われためまい ― シニア世代に多い「ふらつき」の原因とは ―
下高井戸脳神経外科クリニックには、
- 「複数の病院の複数の診療科で診てもらったが、特に異常はないと言われた」
- 「いつもふらふらする」
- 「歩いていると不安定で、転びそうになる」
といったご相談をシニア世代の方から頂くことがあります。
診察をさせて頂くと、
- 眼球を動かした際に目が揺れるような眼振(がんしん:めまいの原因となる目の不随意な動き)は見られない
- 手足の麻痺等の異常もない
- MRIでも、原因となる器質的な疾患は見つからない
一方で、
- Romberg試験(ロンベルグ試験:目を閉じて立ったときに体がふらつくかを見る検査)では不安定になる
という方が少なくありません。
最近の知見でこのような状態は、
決して「気のせい」でも「問題がない」わけでもなく、
シニア世代に特有の、医学的に説明できるめまいの病態であることが分かってきています。
シニア世代のめまいは「一つの病気」とは限りません
シニア世代のめまいは、
- 耳の病気
- 脳の病気
といった単一の原因で説明するよりも、
→複数の身体機能が少しずつ低下することで起こる「多因子性のめまい」
として捉えるべきである、というのが、現在の医学的な考え方です。
これを医学的には
multifactorial dizziness in the elderly
(高齢者の多因子性めまい)
と呼びます。
なぜシニア世代では原因が一つに決まらないのでしょうか
私たちがまっすぐ立ち、歩行するためには、主に次の3つの情報が脳に届く必要があります。
- 前庭(ぜんてい)機能
耳の奥にあるバランス感覚のセンサー - 視覚
目から入る周囲の情報 - 深部感覚
足の裏や関節から伝わる「地面に立っている感覚」
若い頃は、どれか一つが多少弱っても、他の機能が補ってくれます。
しかし徐々に年齢を重ねると、
- 前庭機能が少し低下する
- 視力や奥行き感覚が落ちる
- 足の裏の感覚や筋力が低下する
といった変化が同時に、少しずつ進行します。
その結果、
→ 脳が姿勢を安定させるための情報をうまく統合できなくなる
ことがあります。
これが、ふらつきの正体です。
Presbyvestibulopathy(加齢性前庭機能低下)とは
近年、シニア世代の慢性的なふらつきの原因として
Presbyvestibulopathy(PVP:加齢性前庭機能低下)
という概念が国際的に提唱されました。
Presbyvestibulopathyの特徴
- 60歳以上の方に多い
- 3か月以上続く
- ふらつき
- 歩行の不安定さ
- 慢性的な浮動感(体が浮くような感じ)
- ぐるぐる回る回転性めまいは少ない
- 強い眼振が出にくい
なぜ眼振が目立たないのでしょうか
急に片側の耳が悪くなる「前庭神経炎」などでは、目が大きく揺れます(眼振)。
一方、Presbyvestibulopathyでは、
- 両側の前庭機能が
- 左右差なく
- ゆっくりと低下
していくため、
目立った眼振が出にくいのが特徴です。
Romberg試験が陽性になりやすい理由
Presbyvestibulopathyでは、
- 前庭脊髄反射(ぜんていせきずいはんしゃ)
(体の軸を安定させる反射機能)
が弱くなります。
そのため、
- 明るい場所では何とか立てる
- 目を閉じると急にふらつく
- 夜間や暗い場所で不安定になる
といった状態が起こりやすく、
Romberg試験で陽性になります。
これは「脳の異常がない証拠」ではなく、
バランス機能が弱っているサインです。
シニア世代のめまいをつくる複数の要因
多因子性めまいでは、以下の要素が重なります。
- 前庭機能の低下(加齢性変化)
- 脳白質病変
MRIで「年相応」と言われがちな変化ですが、歩行やバランスを司る神経ネットワークと深く関係します - 視覚の低下
- 足の感覚の低下(末梢神経障害)
- 筋力低下・サルコペニア
(加齢による筋肉量・筋力の低下) - 循環調節障害
(起立性低血圧など、立ち上がったときに血圧が保てない状態) - 転倒への不安や恐怖心
どれか一つだけが原因ではなく、
複数の軽い問題が合わさって症状が出るのが特徴です。
なぜMRIだけでは原因が分からないのでしょうか
MRIは非常に重要な検査ですが、
- 「大きな異常がない」=「機能が正常」
というわけではありません。
加齢による前庭機能の低下や、感覚の統合障害は、
画像には写らない機能低下だからです。
そのため、
- Romberg試験
- 歩行の様子
- 立ち上がり時の安定性
といった身体診察が非常に重要になります。
治療の考え方 ―「治す」より「安定させる・転ばせない」―
このタイプのめまいでは、
- めまい止めを増やす
- 点滴を繰り返す
だけでは、十分な改善は期待できません。
薬物療法について
一般に「めまい止め」として使われる
- 抗ヒスタミン薬
(例:トラベルミン など)
は、一時的に症状を和らげることがありますが、シニア世代では
- 眠気
- ふらつきの悪化
- 認知機能への影響
- 尿が出にくくなる
といった副作用が出やすいことが知られています。(前立腺肥大・緑内障の方には投与禁忌です。)
そのため当院では、
薬を増やすよりも、不要な薬を減らす(ポリファーマシーの見直し)
ことを重視しています。
治療の中心となるのは非薬物療法です
- 前庭リハビリテーション
(視線を安定させる練習、バランス訓練) - 筋力トレーニング・歩行訓練
- 転倒予防
- 生活環境の調整
- 夜間照明
- 手すり
- 履物の見直し
- 眼鏡の調整(遠近両用が不安定さを助長する場合もあります)
老化そのものを止めることはできませんが、
「ふらつきはあっても、転ばず安心して生活できる状態」を目指すことは可能です。
椎骨脳底動脈循環不全(VBI)との違い
最後に、よくご質問を受ける
「脳の血流が悪いめまいではないのか?」
という点について整理します。
高齢者の多因子性めまいとVBIの比較
| 比較項目 | PVP/多因子性めまい(加齢性) | 椎骨脳底動脈循環不全(VBI) |
|---|---|---|
| 症状の性質 | 持続的・慢性的なふらつき | 突発的・発作性(数分〜数時間) |
| めまいの種類 | 非回転性(ふわふわ、不安定) | 回転性が多い |
| 神経症状 | 通常なし | 複視、話しにくさ、しびれ、脱力を伴いやすい |
| 眼振 | 目立たないことが多い | 発作時に明らかな眼振 |
| Romberg試験 | 陽性になりやすい | 発作時のみ陽性のことが多い |
| MRI/MRA | 非特異的変化(脳白質変性など) | 椎骨動脈狭窄や脳幹・小脳梗塞 |
| 治療の中心 | リハビリ・生活調整 | 抗血小板薬・血管リスク管理 |
| めまい単独 | 非常に多い | 少ない |
Q&A
他のクリニックで「異常なし」と言われましたが、本当に問題ないのでしょうか?
このような状態は、決して「気のせい」でも「問題がない」わけでもなく、高齢者に特有の、医学的に説明できるめまいの病態であることが分かってきています。
眼振がないのに、めまい(ふらつき)が起こるのはなぜですか?
Presbyvestibulopathyでは、両側の前庭機能が左右差なくゆっくりと低下していくため、目立った眼振が出にくいのが特徴です。
Romberg試験が陽性と言われました。これはどういう意味ですか?
Presbyvestibulopathyでは、体の軸を安定させる前庭脊髄反射(体の軸を安定させる反射機能)が弱くなります。そのため、目を閉じると急にふらつくなどの状態が起こりやすく、Romberg試験で陽性になります。これは「脳の異常がない証拠」ではなく、バランス機能が弱っているサインです。
MRIで異常がないのに、なぜふらつきが続くのですか?
MRIは非常に重要な検査ですが、「大きな異常がない」=「機能が正常」というわけではありません。加齢による前庭機能の低下や、感覚の統合障害は、画像には写らない機能低下だからです。そのため、Romberg試験や歩行の様子、立ち上がり時の安定性といった身体診察が非常に重要になります。
めまい止めの薬を増やせば治りますか?
このタイプのめまいでは、めまい止めを増やすだけでは十分な改善は期待できません。一般に「めまい止め」として使われる抗ヒスタミン薬(例:トラベルミンなど)は、一時的に症状を和らげることがありますが、シニア世代では眠気、ふらつきの悪化、認知機能への影響、尿が出にくくなるといった副作用が出やすいことが知られています。そのため当院では、薬を増やすよりも、不要な薬を減らす(ポリファーマシーの見直し)ことを重視しています。
どのような治療が中心になりますか?
治療の中心となるのは非薬物療法です。前庭リハビリテーション(視線を安定させる練習、バランス訓練)、筋力トレーニング・歩行訓練、転倒予防、生活環境の調整(夜間照明、手すり、履物の見直し、眼鏡の調整など)を組み合わせ、老化そのものを止めるのではなく、「ふらつきはあっても、転ばず安心して生活できる状態」を目指します。
椎骨脳底動脈循環不全(VBI)との違いは何ですか?
多因子性めまい(加齢性)は持続的・慢性的なふらつきが中心で、めまい単独の頻度が非常に高い一方、VBIは突発的・発作性で、複視、話しにくさ、しびれ、脱力などの神経症状を伴いやすく、めまい単独は少ないのが特徴です。
受診をお考えの方へ
下高井戸脳神経外科クリニックは、東京都杉並区・世田谷区・渋谷区西部を中心に、京王線(下高井戸・明大前・桜上水・千歳烏山・上北沢・八幡山・芦花公園・笹塚・代田橋)、京王新線(幡ヶ谷・初台)、東急世田谷線(松原・山下・宮の坂)、小田急線沿線(代々木上原・東北沢・下北沢・世田谷代田・梅ヶ丘・豪徳寺)、渋谷区西部(上原・大山町・西原・本町)から通院しやすい立地にある脳神経外科専門クリニックです。
頭痛・めまい・しびれ・脳梗塞後の経過観察などを中心に、日本脳神経外科学会専門医である院長が、診察から検査結果の説明まで一貫して対応しています。
初診枠をご予約のうえご来院いただいた場合、症状と診察所見から医学的に必要と判断され、かつMRI検査の禁忌事項がない場合には、当日中にMRI検査および結果説明が可能です(土曜日も17時開始枠まで初診予約が可能です)。
詳しいアクセス方法は、サイト内のアクセス案内をご覧ください。
ご予約はこちらから。
参考文献
本記事は、下記の参考文献を参照して作成しました。
- Nguyen TT, Kang JJ, Nguyen TT, Oh SY. Clinical characteristics and otolith dysfunction in presbyvestibulopathy: A retrospective cross-sectional analysis. Heliyon. 2024;10(12):e32536.
- Agrawal Y, Van de Berg R, Wuyts F, et al. Presbyvestibulopathy: diagnostic criteria Consensus document of the classification committee of the Bárány Society. J Vestib Res. 2019;29(4):161-170.
- Casani AP, Navari E. Aging and vestibular disorders. In: Impairments and Diseases. Chapter 18.
- Agrawal Y. Dizziness demographics and population health. In: Dizziness and Vertigo across the Lifespan. Chapter 1.
- Harris MS, Barin K, Dodson EE. Dizziness in the elderly. In: Dizziness and Vertigo across the Lifespan. Chapter 17.
- Tinetti ME, Williams CS, Gill TM. Dizziness among older adults: a possible geriatric syndrome. Ann Intern Med. 2000;132(5):337-344.
- Min Y, Shoair OA, Slattum PW. Medication-related dizziness in the older adult. In: Dizziness and Vertigo across the Lifespan. Chapter 18.
- Ahmad H, Cerchiai N, Mancuso M, et al. Are white matter abnormalities associated with “unexplained dizziness”? J Neurol Sci. 2015;358(1-2):428-431.
- Bronstein A, Lempert T. Dizziness: a practical approach to diagnosis and management. Cambridge University Press; 2007.
- Iwasaki S, Yamasoba T. Dizziness and imbalance in the elderly: age-related decline in the vestibular system. Aging Dis. 2015;6(1):38-47.
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本記事の執筆者について
本記事は、下高井戸脳神経外科クリニック院長であり、
日本脳神経外科学会専門医・医学博士の 髙橋 里史 が執筆しています。
脳神経外科専門医としての臨床経験と、
国際的な総説論文・標準的教科書に基づき、
専門的な内容を一般の方にも分かりやすく整理しています。
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