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一過性全健忘(TGA)とは?

脳疾患の解説

突然の“新しい記憶が固定されなくなる症状“(前向性健忘と一部逆行性健忘)について、わかりやすく解説します。

「数時間だけ記憶が抜け落ち、その間のことを覚えていない」
「同じ質問を何度も繰り返す」
こうした症状が突然起こる病気を 一過性全健忘(Transient Global Amnesia:TGA) といいます。

TGAは一見とても不安になる症状ですが、必ずしもその全てが脳卒中であるわけではありません。
ほとんどの方は24時間以内に完全に回復し、後遺症を残しません。


TGAとは?(原因・特徴と好発年齢)

● 疾患の概要

TGAは、突然 新しいことを覚えられなくなる(前向性健忘) と同時に、直前の出来事が思い出せなくなる 一時的な記憶障害 (逆行性健忘)を起こす状態です。

通常遠い過去の記憶は保たれ、“自分が誰か”“家族は誰か”“家がどこか” といった長期の記憶はしっかり保たれることがこの疾患の特徴です。
一方で、発症直前の数時間〜数日の記憶は一部曖昧になることがあり、これは「固定化途中だった記憶がしっかり保存されていなかったため」に起こると考えられています。

● 持続時間

通常 1〜24時間以内 に自然に改善します。

● どれくらい起こる?

項目 内容
発生頻度 年間 10万人あたり3.4〜10.4人
好発年齢 50〜80歳代
性差 男女差なし
予後 後遺症なし・自然軽快

● 原因(まだはっきりしていません)

確実な原因は不明ですが、以下が関係すると考えられています。

概要 内容
片頭痛との関連 片頭痛の既往がある場合再発リスクが上がるとの報告あり。脳の電気的変化(皮質拡延性抑制:CSD)の関与が指摘。
静脈うっ血(血液の戻りの滞り)説 強いいきみ・運動・ストレス時の血流変化との関係。
てんかん・心因性 一部の症例で否定できず。
遺伝性の有無 明確な遺伝性は確認されていない

▼ ここで典型的な架空症例のエピソードをご紹介します。

<典型的なエピソード:繰り返される「今日は何日?」>

Aさん、62歳・女性(普段は元気で活動的)

夕方、買い物から帰宅したAさん。
玄関に入ると、ふと夫に尋ねます。

「ねぇ、今日は……何日だっけ?」

夫は答えます。
「11月12日だよ。疲れてるの?」

Aさんは頷きますが、数分後にまた尋ねます。

「ねぇ、今日は何日だった?」

夫は心配になり、リビングに座らせます。
するとAさんは周囲を見回しながら、少し不安な表情でこう言います。

「ここって……うち、よね?」
「私、いま何してたの?」

夫が「買い物から帰ってきたところだよ」と答えます。
しかし、Aさんはその説明をすぐに忘れてしまい、また数分後に同じ質問を繰り返します。

「私、いま何をしていたの?」
「今日は何日?」

しかしAさんは――

  • 夫の名前はわかります
  • 自宅の間取りもわかります
  • 歩行はしっかりしていて呂律もしっかり回っています
  • 意識もはっきりしています
  • 痛み、しびれ、顔面や手足の麻痺は全くありません

最近の“記憶”だけがぽっかり抜け落ちている状態。
これがまさに 一過性全健忘(TGA)の典型像 です。

夫はAさんを近くの脳神経外科クリニックへ連れて行き、詳細な問診と神経学的診察を受け、MRIで他の原因疾患を否定したうえでTGAの可能性が高いと診断を受け、疾患について注意事項や通常辿り得る経過について説明を受けました。
幸い数時間後には徐々にAさんは周囲の状況を正確に把握することができるようになり、翌朝になると症状は完全に消失しました。


TGAはどんなふうに始まる?(典型例)

● よくある発症状況

  • 朝よりも 午後など1日の後半に起こることが多い
  • 発症前に以下の行動がみられることがある
    • 激しい運動
    • 入浴や急な温度変化
    • 強いストレスや不安
    • 性行為

● 典型的な症状

症状 説明
新しいことを覚えられない 同じ質問を何度も繰り返す(例:「今日は何曜日ですか?」)
直前の記憶が抜ける 発症数時間前の出来事を思い出せない
自分が誰かはわかる 自己認識(自分の名前・家族など)は保たれる
その他の神経症状なし 麻痺・構語障害・意識障害は起こらない
協力的に会話はできる 普通に会話し、物の名称もわかる

どのように良くなっていく?

TGAは自然と良くなります。

回復の特徴 説明
数時間〜24時間で改善 ほとんどの場合時間経過で自然に治る
遠い記憶→近い記憶の順に戻る 「望遠鏡のように」遠い記憶から回復
発症中の出来事は戻らないことが多い 数時間分の“記憶の穴”が残るが、心配いらない

TGAと間違えやすい病気(重要)

TGAかどうか迷う場合、特に次の病気を除外する必要があります。

● 鑑別がとても重要な疾患

疾患名 TGAと異なる点
急性虚血性脳梗塞(海馬梗塞) 片側の海馬の梗塞により、類似する記憶障害が出る。MRIで判別。
一過性てんかん性健忘(TEA) 持続は 1時間未満・繰り返しやすい・てんかんの既往あり。記憶障害は逆行性が主体。
一過性脳虚血発作(TIA) 多くは麻痺・しびれ・言語障害などを伴う。
低血糖 意識障害・発汗などを伴う。
ウェルニッケ脳症 眼球運動異常・歩行のふらつきなどを伴う。
頭部外傷・中毒性脳症 外傷歴や薬物の影響が明らか。

TGAの診断は臨床症状(詳細な問診と神経学的診察)が中心ですが、脳のMRIを行い、脳卒中などを除外します。


MRIでは何がわかる?

MRIで除外可能なTGAと鑑別を要する脳の器質的疾患があります。

● TGAのMRIの特徴

検査タイミング 所見
発症直後〜数時間 ほとんどの症例で異常なし
発症24〜72時間後 海馬(記憶中枢)に小さな点状のDWI高信号が出ることがある
部位 両側または片側の海馬CA1領域

※これらの所見はTGAの参考所見です。


TGAはどう治療する?

● 特別な治療は必要ありません

TGAは自然軽快する良性の病態です。

● 医療機関で行うこと

内容 説明
問診・神経学的診察 他の重篤疾患が隠れていないか確認
脳MRI 海馬梗塞などの鑑別
経過観察 記憶が戻るまで数時間〜半日の経過観察
継続時間が長い場合は他疾患の可能性も考えて再度診察をします

● 内服治療

基本的に不要ですが、原因が疑われる場合は
・ビタミン不足の可能性 → チアミン投与 を検討することがあります。


よくある質問(Q&A)

何歳くらいの人に多いですか?

50〜80歳に多く、若い方ではまれです。

きっかけは何ですか?

・強いストレス
・激しい運動
・入浴や急な温度変化
・性行為
などの直後に起こることがあります。

遺伝しますか?

遺伝性は確認されていません。

繰り返しますか?

多くは 一度だけ ですが、研究では 約13% の再発率が報告されています(比較的まれ)。

発症中の記憶は戻りますか?

その間の出来事は 戻らないことが多い ですが、後遺症は残らず生活に大きな影響はありません。

ストレスが原因になり得ますか?

はい。強いストレスは誘因になり得ます。

何科を受診すればよいですか?

急に記憶障害が起きたら、脳卒中との鑑別が最重要です。
まずは 救急外来 または 脳神経外科・神経内科 の受診を推奨します。


▼ まとめ

一過性全健忘(TGA)は、突然の記憶障害を引き起こすため大きな不安を招きますが、脳卒中ではなく、自然に改善する良性の病態 です。
ただし、似た症状を示す疾患の中には、治療が必要なものもあります。
「突然の記憶障害が出た」「同じ質問を何度もしてしまう」
といった症状があれば、速やかにご相談ください。

下高井戸脳神経外科クリニックは東京都区部西部、京王線(千歳烏山、上北沢、八幡山)、東急世田谷線沿線(松原、山下、豪徳寺)、杉並区南部(下高井戸、永福、和泉、浜田山)、世田谷区北東部(赤堤、松原、羽根木、下北沢、梅が丘、代田)、渋谷区西部(笹塚、幡ヶ谷、代々木上原)からアクセス良好な地域の脳神経外科専門クリニックです。
当日ご来院予定時刻の1時間前まで予約可能な初診枠をご予約のうえご来院頂いた場合、ご希望と必要性があり、検査の禁忌事項がない場合、当日中のMRI検査と日本脳神経外科学会専門医の院長による結果説明が可能です。土曜日午後も17時からの診療枠まで予約が可能です。
頭の不安や症状をその日のうちにできるだけ解決するお手伝いをさせて頂きます。
脳に関するご不安がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

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