三叉神経痛|顔に電気が走るような激痛
「顔に電気が走るような激痛…それは三叉神経痛かもしれません」

下高井戸脳神経外科クリニックの三叉神経痛診療
三叉神経痛は食事や洗顔をきっかけに激しい顔面痛を引き起こす疾患で、その痛みの強さからQOLを大きく低下させる疾患です。
下高井戸脳神経外科クリニックでは詳細な問診、神経学的診察、MRIを用いた画像診断で三叉神経痛の診断を行い痛みをコントロールするための投薬治療を行っております。
ご希望があり、手術の適応があると考える場合には適切な医療機関へ手術に関する紹介を行っております。
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目次
- 典型的なエピソード
- 三叉神経痛の症状について
- 三叉神経痛の有病率、好発年齢、性差
- 三叉神経痛の診断と類縁疾患との鑑別方法のまとめ 特にトリガーポイントや痛み部位について
- 診断におけるMRIの役割
- 治療法(薬物治療・手術・その他)
- 予後
- 類縁疾患としての舌咽神経痛について
- Q and A
- 参考文献
- 本記事の執筆者について
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典型的なエピソード
・典型症例のエピソード
Aさんは55歳の女性です。これまで大きな病気もなく、家事や仕事をこなしながら、いつも通りの生活を送っていました。
ある朝、洗面所で顔を洗おうとした瞬間、右の顎のあたりに「ビリッ」と電気が走るような鋭い痛みが突然起こりました。驚いて手を止めると痛みはすぐに消えましたが、今度は歯を磨こうと口を動かした際に同じ痛みが繰り返し起こり、彼女は次第に「また同じ痛みが来るのではないか」という恐怖を抱くようになってしまいました。
痛みは数秒から長くても2分以内に治まります。しかし、その短い痛みがあまりに強烈で、日常の行動が一つひとつ試練のようになっていきます。
食事をしようとしても、噛む動作が怖くて口を小さくしか動かせない。
会話をしていても、言葉を発した瞬間に痛みが走りそうで、必要最低限しか話せない。
外出時に風が頬に当たるだけでも不安になり、マスクを強く当てないようにそっと装着します。
やがて彼女は、痛みを避けようと無意識に顔を触らなくなり、歯磨きも十分にできず、食事量も減っていきました。
最初は虫歯や歯の神経の異常を疑い歯科を受診しましたが、レントゲンでも大きな問題はなく「歯の病気ではなさそうです」と言われます。原因が分からないまま痛みだけが続くことに不安が増し、インターネットで調べるうちに「三叉神経痛」という言葉にたどり着きました。
三叉神経痛(Trigeminal Neuralgia: TN)は、顔面に時に日常生活に支障が出るほどの非常に激しい痛みが生じる疾患です。
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三叉神経痛の症状
三叉神経痛の痛みは、突然に始まり、突然に治まるという性質を持ちます。痛みは短く、数秒から長くても2分以内で治まることが多い一方で、その強さは非常に強烈で、「電撃痛」「刺すような痛み」「撃たれたような痛み」と表現されます。多くの場合、痛みは顔の片側に起こり、正中(顔の真ん中のライン)を越えて反対側に広がることはありません。
痛みが起こる場所は三叉神経の3本の神経支配領域(V1-V3)に一致しますが、特に多いのは上顎(V2)や下顎(V3)の領域です。頬や上顎、鼻の横、上唇のあたり、あるいは下顎、下唇、顎先などに痛みが集中し、V2とV3の両方にまたがって痛みが出る方も少なくありません。額や目の周り(V1)のみに痛みが起こるケースは比較的まれとされています。
そして三叉神経痛の最大の特徴は、本来痛みにならないような弱い刺激で痛みが誘発される点です。食事、会話、洗顔、歯磨き、髭剃り、化粧、軽い接触、風に当たるなど、日常の何気ない動作が引き金になります。痛みを誘発する領域は「トリガーゾーン (トリガーポイント)」と呼ばれ、鼻唇溝(小鼻の脇から口角にかけての溝)や顎の周辺などに存在することが多いとされています。特徴的なのは、強く押す刺激よりも、軽く触れる刺激のほうが痛みを誘発しやすいという点です。
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三叉神経痛の有病率、好発年齢、性差
三叉神経痛は一般人口において0.1%未満(0.03%〜0.3%程度)と報告されており、比較的稀な疾患です。好発年齢は50歳〜60歳代にピークがあります。30歳未満での発症は非常に稀で、その場合には多発性硬化症(MS)などの二次的な原因が隠れていないかを慎重に確認する必要があります。
性差としては男性よりも女性に多く、男女比は約1:1.5〜1.7、あるいは女性が全体の約66%とされる報告があります。発症側は統計的に右側がやや多いとする報告もあります。
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三叉神経痛の診断と類縁疾患との鑑別方法
特にトリガーポイントや痛み部位について
三叉神経痛の診断で最も重要なのは、患者さんが感じる痛みの「性質」「持続時間」「部位」「誘因(トリガー)」を丁寧に確認することです。
三叉神経痛では、痛みは発作的で短く、電撃のように起こり、顔の片側に限局し、日常の軽い刺激で誘発されやすいという特徴があります。また、典型的な三叉神経痛では発作と発作の間は神経学的に異常がなく、顔の感覚が鈍い、しびれる、噛む力が落ちるといった症状は通常みられません。もし痛みのない時にも感覚異常や麻痺がある場合には、腫瘍など別の病気を疑う必要があります。
鑑別が必要な病気としては、虫歯や歯髄炎などの歯科疾患、顎関節症(TMJ)、帯状疱疹後神経痛、群発頭痛、片頭痛の一部のタイプ、側頭動脈炎、舌咽神経痛などが挙げられます。ここでは「見分け方(鑑別方法)」を整理します。
歯科疾患
歯科疾患の場合、痛みは噛む動作や冷温刺激で悪化することがありますが、三叉神経痛のように「電気が走るような痛みが数秒で終わり、軽い触刺激で誘発される」というパターンとは異なることが多いです。また、歯科では虫歯や歯周病、歯の根の炎症などが画像や診察で確認されることが多く、治療で痛みの原因がはっきりします。三叉神経痛では歯科で「異常なし」と言われることがしばしばあります。
顎関節症
顎関節症では、口を開けたり噛んだりする動作で顎関節周囲が痛むことが多く、痛みは「ズキズキ」「だるい」「重い」といった持続的な痛みになりやすい傾向があります。関節のクリック音、開口障害、顎の違和感を伴うことがあり、三叉神経痛のような瞬間的な電撃痛とは性質が異なります。
帯状疱疹後神経痛
帯状疱疹後神経痛は、以前に帯状疱疹(皮膚の発疹)を顔に起こした既往があり、その後に「焼けるような痛み」「ヒリヒリする痛み」が長く続くのが特徴です。三叉神経痛のように短い発作で終わるというより、持続性の痛みが主体となりやすい点が違いです。
群発頭痛
群発頭痛は、目の奥がえぐられるように痛む激しい頭痛で、同じ側の目の充血、涙、鼻水、鼻づまりなどの自律神経症状を伴うことが多く、痛みの持続は15分〜3時間程度と長めです。三叉神経痛のように「数秒〜2分以内の電撃痛」とは持続時間が違います。
片頭痛
片頭痛の一部のタイプでも顔面周囲の痛みを訴えることがありますが、一般的には数時間以上続き、吐き気や光・音に敏感になるといった特徴を伴うことが多いです。日常動作の軽い接触がトリガーになり「数秒で終わる電撃痛」という典型像は三叉神経痛の方が一致します。
側頭動脈炎
側頭動脈炎は高齢の方に起こりやすく、こめかみの痛みや頭皮を触ると痛い、顎がだるくなる(噛むと疲れる)などの症状を伴うことがあり、放置すると視力障害につながることがあるため注意が必要です。発熱や全身のだるさ、血液検査で炎症反応が高いなど、三叉神経痛とは別の特徴が手がかりになります。
このように、三叉神経痛は「痛みの場所」「痛みの長さ」「誘因」「随伴症状」を丁寧に整理することで、類縁疾患との見分けが可能になります。
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診断におけるMRIの役割
MRIは、三叉神経痛の診断において「三叉神経痛らしい症状を確認する」だけでなく、さらに一歩進んで「なぜその痛みが起きているのか」を評価するために重要です。
三叉神経痛には、いわゆる典型例(原因として血管の圧迫が関与することが多いもの)と、別の病気が背景にあるタイプがあります。MRIはその鑑別と、治療方針の決定に大きく関わります。
神経血管圧迫(NVC: neurovascular compression)
まず、三叉神経痛で最もよく問題になるのが「神経血管圧迫(NVC)」です。これは、脳幹から出る三叉神経の根元(root entry zone)付近で、上小脳動脈(SCA)などの血管が神経に接触し、長期にわたり圧迫することで、神経の表面の絶縁(電気的な保護)にあたる部分が傷みやすくなり、わずかな刺激で痛みの信号が過剰に発生してしまう状態と考えられています。例えるなら、三叉神経が「高電圧のケーブル」だとして、その被覆が擦れて傷つき、少しの刺激でショートを起こして「火花(激痛)」が散るようなイメージです。
MRIが必要なもう一つの大きな理由が、腫瘍や多発性硬化症(MS)などの「二次性の原因」を見逃さないことです。
脳腫瘍
たとえば、小脳橋角部(脳の奥、耳の内側あたり)に腫瘍があると、三叉神経を物理的に圧迫したり刺激したりして、三叉神経痛に似た痛みが出ることがあります。この場合、痛みだけでなく、顔のしびれや感覚の鈍さ、聴力低下、ふらつきなど、他の神経症状を伴うこともあり、神経学的診察とMRIで総合的に判断します。
多発性硬化症
また多発性硬化症では、神経の絶縁にあたる部分が炎症で傷つく(脱髄)ため、三叉神経に関係する場所にその変化が起こると、若い方でも三叉神経痛様の痛みが出ることがあります。特に30歳未満での発症や、左右両側に痛みが出る場合、典型的な三叉神経痛とは異なる経過の場合には、こうした背景疾患を慎重に考える必要があります。
MRIでは、CISS画像やMRAなどを組み合わせて、血管と神経の位置関係、腫瘍の有無、炎症や脱髄の所見などを評価します。ただし注意点として、健康な方でも血管が神経に触れているように見えることがあるため、画像所見だけで結論を出すのではなく、症状(痛みの場所やトリガー、経過)と一致しているかを重視して診断します。
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治療法
薬物治療
薬物治療は第一選択となる治療法です。三叉神経痛では、神経が過敏になって過剰な痛みの信号を出している状態を落ち着かせる目的で薬を用います。
カルバマゼピン
代表的な薬がカルバマゼピンで、三叉神経痛に対して最も有効性が証明されている薬とされています。通常は少量から開始し、痛みの程度や副作用を確認しながら徐々に調整します。効果が期待できる一方で、めまい、ふらつき、眠気、注意力低下、吐き気、発疹などが出ることがあり、体質によっては重い薬疹や血液の異常、低ナトリウム血症などに注意が必要です。そのため、必要に応じて血液検査や心電図などで安全性を確認しながら治療を進めます。
カルバマゼピン以外にも、ガバペンチンやラモトリギンなどが、状況に応じて代替または併用薬として検討されます。
手術
薬が十分に効かない場合、または副作用のために十分な量を使えない場合には、手術を含む専門的治療を検討します。代表的なのが微小血管減圧術(MVD)で、神経を圧迫している血管を離し、緩衝材を挟むことで神経への刺激を取り除く手術です。原因に直接アプローチする治療として位置づけられ、長期的に高い満足度が得られます。当院では、ご希望があり、適応があると考える場合に、適切な医療機関へ手術に関する紹介を行います。
その他
薬物治療や微小血管減圧術以外にも、顔面から針を刺して神経に作用させる経皮的治療や、定位放射線治療(ガンマナイフ等)といった方法があります。年齢、全身状態、症状のタイプ、患者さんの希望などを踏まえて選択されます。
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予後
多くの患者さんが初期には薬物治療に反応しますが、時間の経過とともに効果が減弱したり、副作用のため継続が難しくなる場合があります。
手術(微小血管減圧術)を受けた場合、約90%が直後に痛みから解放され、5年後でも約70〜80%が良好な状態を維持すると報告されています。ただし再発することもあり、その頻度は年間約4%とされます。重要なのは、症状の強さや生活への影響、薬の効果と副作用のバランスを見ながら、その方に合った治療方針を選ぶことです。
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類縁疾患としての舌咽神経痛について
舌咽神経痛(GPN)は三叉神経痛と非常によく似た特徴を持つ稀な疾患です。痛みは喉の奥(扁桃体付近)、舌の付け根、耳の奥に生じやすく、誘因として飲み込む(嚥下)、咳をする、あくび、会話などが挙げられます。
特徴として、稀に心臓への神経伝達に影響し、徐脈や失神を伴うことがあり注意が必要です。治療は三叉神経痛と同様に、カルバマゼピンなどの薬物治療や微小血管減圧術が有効です。
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Q and A
顔の痛みがあるとき、最初に歯科に行った方が良いですか?
歯の病気が疑われる場合は歯科受診が重要です。歯科受診で異常が見つからないのに「電気が走るような短い激痛」が繰り返される場合は、三叉神経痛の可能性を念頭に脳神経外科へのご相談もご検討ください。
三叉神経痛は両側に起こることはありますか?
多くは片側性で、約97%が片側に起こるとされています。両側性の場合は多発性硬化症などの背景疾患が疑われることがあり、MRIなどで慎重な評価が必要です。
MRIで血管が神経に触れていると言われました。必ず痛みの原因ですか?
健康な方でも血管接触が見られることがあるため、画像所見だけで判断せず、症状(痛みの部位やトリガー)と一致しているかを重視して診断します。
薬は一生飲み続ける必要がありますか?
状況によります。薬で安定して内服が不要になる方もいれば、時間とともに効きにくくなる方もいます。必要に応じて薬の調整や、手術を含む治療選択肢を検討します。
手術が必要になるのはどんなときですか?
十分な薬物治療でも痛みが抑えられない場合、薬の副作用で治療継続が難しい場合、痛みで生活の質が大きく下がっている場合などに検討されます。当院ではご希望と適応を踏まえて適切な医療機関へご紹介します。
舌咽神経痛は三叉神経痛とどう違うのですか?
舌咽神経痛は喉の奥や耳の奥、舌の付け根に電撃痛が起こり、飲み込む動作などで誘発される点が特徴です。似ているため、痛みの場所と誘因を丁寧に確認して鑑別します。
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参考文献
- Allam AK, Sharma H, Larkin MB, Viswanathan A. Trigeminal neuralgia: diagnosis and treatment. Neurol Clin. 2023;41(1):107–121.
- Allam AK, Larkin MB, Sharma H, Viswanathan A. Trigeminal and glossopharyngeal neuralgia. Neurol Clin. 2024;42(2):585–598.
- Straus DC, Ko AL, Sekhar LN. Trigeminal neuralgia. In: Winn HR, editor. Youmans and Winn Neurological Surgery. 7th ed. Philadelphia: Elsevier; 2017. p.1198–1205.
- Patel SK, Liu JK. Overview and history of trigeminal neuralgia. Neurosurg Clin N Am. 2016;27(3):265–276.
- Waldman SD. Trigeminal neuralgia. In: Atlas of Common Pain Syndromes. 5th ed. Philadelphia: Elsevier; 2024. p.31–35.
- Waldman SD. Glossopharyngeal neuralgia. In: Atlas of Common Pain Syndromes. 5th ed. Philadelphia: Elsevier; 2024. p.61–64.
※ 本記事は、上記の国際的総説・標準的教科書および筆者の臨床経験をもとに作成しています。
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本記事の執筆者について
本記事は、下高井戸脳神経外科クリニック院長であり、
日本脳神経外科学会専門医・医学博士の 髙橋 里史 が執筆しています。
脳神経外科専門医としての臨床経験と、
国際的な総説論文・標準的教科書に基づき、
専門的な内容を一般の方にも分かりやすく整理しています。


