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妊活中・妊娠中・授乳中の片頭痛治療

脳疾患の解説  / 頭痛

妊活中・妊娠中・授乳中の片頭痛治療

―「薬が使えないから我慢」…とあきらめるまえに、一度考えてみませんか―


• 片頭痛は、女性ホルモン(特にエストロゲン)の変動と密接に関係します。
→ そのため、妊活中・妊娠中・授乳中といったライフステージの変化にともなって、片頭痛が良くなったり、悪くなったりすることがあります。
• 重要なのは、「この時期は何もできない」と決めつけず、
薬を使わない方法(非薬物療法)を柱にしつつ、必要な場合は時期に応じて安全性の高い薬を選んで片頭痛のコントロールをすることです。
• とくに妊娠が判明した(あるいは可能性がある)時点で、中止・切り替えを急ぐべき薬があります。このため、妊活の段階からの整理(プレコンセプションケア)が非常に大切です。


下高井戸脳神経外科クリニックでできる事

• 「いまが妊活中/妊娠中/授乳中のどの時期か」を踏まえた片頭痛の整理
→ 片頭痛はひとくくりではなく、「前兆があるタイプ/ないタイプ」などで、経過や注意点が変わります。まずは状況を一緒に整理します。
• 薬を使わない対策(生活・行動)を、治療の柱として提案
→ 妊活中・妊娠中・授乳中は、胎児や乳児への影響を避けるため、非薬物療法が第一選択になりやすい時期です。
ただし、ただ「我慢」ではなく、具体的に何をどう整えるかを一緒に設計します。
• 薬が必要な場合は、「最小限の量を、最短期間で」かつ時期に応じて選択
→ どの時期でも薬物療法の原則は「必要最小限」。
そのうえで、使える薬・避けるべき薬を整理し、現実的な選択肢をご提案します。
実際の処方に関しては産婦人科の先生方とご相談のうえ進めさせて頂きます。


目次


本文

1. 片頭痛と女性ホルモンの関係(なぜ時期で変わるのか)

• 片頭痛は、女性ホルモンの変動と密接に関係します。
• とくに重要なのは、エストロゲンの急激な低下で、これは片頭痛の強い引き金(トリガー)になりやすいとされています。

月経周期では、エストロゲンは上がったり下がったりを繰り返します。片頭痛の方の中には、この“上下動”とくに「急な低下」で発作が起こりやすい方がいます。
そして妊活中・妊娠中・産後・授乳中は、このホルモン環境が大きく変わるため、片頭痛の出方も変わりやすくなります。


2. 妊活中の片頭痛:良くなる?悪くなる?治療の考え方

妊活中の特徴(症状の傾向)
• 妊活そのものが直接片頭痛を良くしたり悪くしたりするということはありませんが、妊娠に向けた準備としての片頭痛の管理が重要になります。
• 妊娠が成立するまでは月経周期が続くため、月経時片頭痛(エストロゲン低下に伴う片頭痛)は継続して起こり得ます。

妊活中は「妊娠が成立するかもしれない」時期であり、薬の選択がとても重要になります。
妊娠が判明する前であっても、胎児への影響を考える必要があるためです。ここが、妊活中の片頭痛治療の難しさであり、同時に“整理しておく価値が大きい”ポイントでもあります。

妊活中の治療の基本方針
• 潜在的にリスクのある薬剤を、中止または切り替える
• 可能であれば、妊活を始める段階(プレコンセプションケア)で相談し、あらかじめ安全性の高い治療へ移行しておく

妊娠がわかった瞬間に慌てて薬を止めるのではなく、妊活の段階で「続けてよい薬」「中止すべき薬」「切り替え先」を設計しておくことが理想的です。
とくに予防薬(毎日飲むタイプ)の中には、妊娠中に禁忌となるものが存在します。

また、妊娠中および授乳中に本邦で使用される可能性がある片頭痛治療薬(スマトリプタン、プロプラノロール、アミトリプチリン、アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)は、いずれも「明確に妊娠中および授乳中に安全と断定されている薬剤はなく」、本邦の添付文書上は「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合に限り使用する」という位置づけになっています。これは、妊娠中・授乳中の大規模ランダム化比較試験が倫理的に実施困難であるため、『完全に安全』と断定できるだけのエビデンスが存在しないことに起因します。実際の臨床では、大規模観察研究や妊娠レジストリのデータに基づき、相対的な安全性が評価されています。

また、多くの薬剤で母乳中への移行が報告されており、授乳中は授乳の継続・中止や一時的な授乳回避について慎重な判断が必要とされています。

そのため、妊活中・妊娠中・授乳期に薬物治療を行う場合には、「完全に安全な薬が存在するわけではない」という点をご理解いただいたうえで、症状の重症度や生活への影響を踏まえ、非薬物療法を基本としつつ、必要最小限の薬剤を慎重に選択することが重要になります。


妊活中に避けるべき薬/切り替えを検討する薬
• 避けるべき薬(とくに注意が必要)
✓バルプロ酸(デパケンなど):胎児の奇形だけでなく、出生後の知能発達にも重大な影響が確立されています。
✓ トピラマート(トピナなど):口唇口蓋裂や胎児の成長遅延(低出生体重)のリスクが報告されています。
✓ ACE阻害薬/ARB(カンデサルタン、リシノプリルなど):本邦ではあまり片頭痛予防として使われることはない薬剤ですが、胎児の腎機能への悪影響などが問題になり、妊娠初期〜後期のどの段階でもリスクが指摘されます。
✓ CGRP関連製剤(エムガルティ、アジョビ、アイモビーグなど):安全データが不足しており、また半減期が長いため、妊娠の数ヶ月前から中止することが推奨されます。
✓ フィーバーフュー(ナツシロギク):サプリメントに含まれることがある西洋ハーブの一種です。子宮収縮促す可能性がある成分が含まれているとの報告があり、妊活中・妊娠中・授乳中は「避けるべき」と考えます。

ここは非常に重要なので、たとえ片頭痛がつらくても「妊活に入るならまず整理したい薬」です。

妊活中に使用の検討が可能な薬
• 急性期治療(痛みが出た時に飲む薬)
✓ アセトアミノフェン(カロナールなど):最も推奨されます。
✓ 中等度〜重度の発作では スマトリプタンなどのトリプタンも検討されます。

―トリプタンの中で第一選択として考えられるのは「スマトリプタン」―
妊娠中の片頭痛治療では、まずアセトアミノフェンが第一選択となりますが、それでも痛みが強く日常生活に支障が出る場合、次の選択肢として検討されるのがトリプタン製剤です。
その中で、妊娠中に最も安全性が高いと考えられ、第一選択薬として推奨されているのが「スマトリプタン」です。

なぜスマトリプタンが第一選択とされるのか
● 豊富な使用実績と大規模データがある
• スマトリプタンは、トリプタン製剤の中で最も古くから使用されている薬です。
• 北欧(ノルウェー、スウェーデンなど)を中心とした妊娠レジストリ研究において、数千例規模の妊娠中曝露データが蓄積されています。
• これらの解析から、妊娠初期に使用しても胎児の大奇形のリスクを有意に高めないことが示されています。

妊娠中の薬剤評価では、「理論上の安全性」よりも「実際に使われた結果どうだったか」という実データが非常に重要です。
その点で、スマトリプタンは他のトリプタンに比べ、圧倒的に情報量が多い薬剤です。

● 胎盤を通過しにくい性質(親水性)
• スマトリプタンは、水溶性という特徴を持っています。
• 一方で、リザトリプタンやエレトリプタンなど他のトリプタンは脂溶性が高い薬剤です。
• スマトリプタンはこの性質により、胎盤を通過しにくく、胎児への移行量が比較的少ないと考えられています。
胎盤は、母体と胎児を隔てる「フィルター」のような役割を果たしています。
水溶性の薬はこのフィルターを通過しにくく、結果として胎児への曝露量が抑えられやすい、という利点があります。

● 妊娠中に適した投与形態が選べる
• スマトリプタンは、点鼻薬(鼻噴霧器)という投与形態が利用できます。
• 点鼻薬は、
✓ 錠剤と同等、あるいはそれ以下の血中濃度で効果を発揮できる
✓ 妊娠後期に起こりやすい胃の動きの低下(胃内容停滞)や吐き気があっても使用しやすい
という利点があります。

妊娠中は「飲み薬を飲んでも効きにくい」「吐いてしまう」という場面も少なくありません。
点鼻薬は、消化管を介さずに作用するため、妊娠中の実臨床では非常に扱いやすい選択肢になります。
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他のトリプタン製剤は使えないのか?
• エレトリプタン、リザトリプタン、ゾルミトリプタンなどについても、
これまでの研究で明確な催奇形性(胎児の形の異常)を示す証拠は報告されていません。
• ただし、
✓ 妊娠中の曝露例がスマトリプタンに比べて少ない
✓ 長期的・大規模なデータが限られている
という理由から、より確かな安全性を優先する場合には、スマトリプタンが選ばれます。

使用時の大切な原則(補足)
• いずれのトリプタン製剤であっても、
「必要最小限の用量を、必要な時にだけ」使用することが原則です。
• 目安としては、月に9日以内の使用にとどめることが推奨されます。
• フランスの催奇形性因子リファレンスセンター(CRAT)などの専門機関でも、
アセトアミノフェンで効果不十分な場合の次の一手として、スマトリプタンを優先することが推奨されています。

わかりやすい例えで
スマトリプタンを例えるなら、
「網目の細かいフィルターを通れない大きな荷物」のような薬です。
水溶性という性質のため、胎盤というフィルターに引っかかりやすく、
胎児という「隣の部屋」に届く薬の量が少なく済みます。
その結果、妊娠中でも比較的安全性が保たれやすいと考えられています。

• 予防薬(必要時に医師と相談して)
✓ ベータ遮断薬(プロプラノロールなど)
✓ 三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)

片頭痛の頻度や重症度が高く、生活に大きな支障が出る場合には、安全性を考慮したうえで、産婦人科医ともご相談のうえ予防薬を検討することがあります。
ここでは、この時期に比較的使用経験が多く、検討されることのある
ベータ遮断薬と三環系抗うつ薬について整理します。

片頭痛予防療法を検討する一般的な適応
妊活中〜授乳期であっても、以下のような状況では予防療法が検討されます。
• 片頭痛の頻度・重症度が高い場合
✓ 月に4日以上の片頭痛発作がある
✓ 発作のたびに仕事や家事、育児が成り立たなくなるなど、日常生活への影響が大きい
• 急性期治療の限界がある場合
✓ スマトリプタンなどの急性期治療薬が十分に効かない
✓ 副作用のため使用できない
✓ 使用頻度が多く、薬剤乱用頭痛(MOH)のリスクが高い
(目安として、急性期治療薬を月8日以上使用している場合など)
• 特殊な病型・状況
✓ 長く続く前兆を伴う片頭痛
✓ 血液凝固異常など、発作そのものがリスクになると考えられる場合

妊娠・授乳期だからといって、すべての予防治療を諦める必要はありません。
「発作を減らすこと自体が、母体の安全や生活の安定につながる」ケースでは、慎重に予防薬を検討します。

ベータ遮断薬(プロプラノロールなど)
ベータ遮断薬は、多くの国際的ガイドラインで妊娠中片頭痛予防の第一選択薬として位置づけられている薬剤です。
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ベータ遮断薬が適応となるケース
• 高血圧、動悸、緊張しやすさ(あがり症・社会的不安)を合併している場合
• 妊娠中・授乳中
✓ 妊娠中にどうしても予防薬が必要な場合の第一選択肢の一つ
✓ 授乳中も比較的安全に使用できるとされています
ベータ遮断薬は、心拍や自律神経の過剰な反応を抑えることで、片頭痛の「起こりやすさ」を下げると考えられています。
とくに、緊張や動悸とともに片頭痛が悪化する方では、症状全体をまとめて落ち着かせる効果が期待できます。
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使用上の注意点(非常に重要)
• ベータ遮断薬を使用できない(禁忌)ケース
✓ 喘息
✓ 心不全
✓ 徐脈(脈が極端に遅い)
✓房室ブロック(心臓の伝導障害)
• 妊娠中(特に後期)の注意点
妊娠第3三半期に使用すると、
✓ 新生児の徐脈(心拍数低下)
✓ 低血糖
✓ 呼吸抑制
が起こるリスクが報告されています
o そのため、
✓ 出産予定日の数日〜数週間前に中止を検討する
✓ あるいは出産後に新生児の状態を注意深く観察する
といった対応が必要になります
• 主な副作用
✓ 倦怠感
✓疲れやすさ(運動耐容能の低下)
✓うつ症状の悪化

妊娠中に使える予防薬ではありますが、「いつまでも漫然と続ける薬」ではありません。
とくに出産が近づいた時期には、産科と連携しながら使用継続の是非を判断します。

三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)
アミトリプチリンは、片頭痛予防に長い使用歴を持つ薬剤で、痛みだけでなく睡眠や気分にも作用するのが特徴です。

アミトリプチリンが適応となるケース
• 不眠、不安、抑うつ気分を伴う片頭痛
• 首や肩の慢性的な痛み(緊張型頭痛が混在している場合など)
• 妊娠中で、ベータ遮断薬が使えない場合の第二選択肢

アミトリプチリンは「抗うつ薬」という名前ですが、片頭痛予防では少量を用いることが多く、
「眠りを整え、痛みに過敏な神経を落ち着かせる」目的で使われます。

使用上の注意点
• アミトリプチリンが使用できない(禁忌)ケース
✓ 緑内障
✓ 前立腺肥大
✓ 最近の心筋梗塞
• よく見られる副作用
✓ 口渇(口の渇き)
✓ 眠気
✓ 体重増加
✓ 便秘
✓ 尿閉(尿が出にくい)
• 妊娠・授乳中の注意点
✓ 妊娠後期に使用すると、
新生児に離脱症状(呼吸困難、イライラなど)が出ることが稀にあります
授乳中は、
✓ 乳児に眠気が強く出ていないか
✓ 便秘がないか
といった点を観察しながら使用します

アミトリプチリンは効果が期待できる一方で、副作用の出方には個人差があります。
「少量から開始し、合わなければ無理に続けない」という姿勢が重要です。


3. 妊娠中の片頭痛:多くは改善するが、例外もある

妊娠中の片頭痛はどうなる?
• 妊娠中は、多くの方で片頭痛が軽快します。
• 片頭痛を持つ女性の約50%〜80%が、妊娠中期(第2三半期)と妊娠後期(第3三半期)に発作頻度の減少を経験し、中には完全に消失(寛解)する方もいます。
• とくに前兆のない片頭痛で改善が顕著で、妊娠後期には最大80%が寛解に至ると報告されています。

妊娠中は、「片頭痛が良くなりやすい時期」です。
この背景にあるのが、ホルモン環境の大きな変化です。
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なぜ妊娠中は改善しやすいのか?
• 妊娠中は、エストロゲン(卵胞ホルモン)が月経周期の30〜40倍まで上昇し、しかも安定して高い状態が続きます。
• 月経周期に伴う「エストロゲンの急激な低下」という主要トリガーが消失することが、症状の緩和につながります。
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妊娠中の注意点(改善しにくいケース)
• 一方、前兆のある片頭痛は改善しにくい傾向があり、妊娠中に継続したり、稀に悪化したりすることがあります。
• 妊娠初期(第1三半期)までに改善が始まらない場合は、妊娠期間を通じて症状が続く可能性が高くなります。
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妊娠中の薬物療法の原則
• 妊娠中の薬物療法は必要最小限の用量と期間にとどめることが原則です。

妊娠中は、薬の影響をできるだけ小さくする必要があります。
そのため「薬が必要な日があるのか」「どの程度の痛みか」「頻度はどうか」を丁寧に評価し、最適化することが大切です。


4. 産後および授乳中の片頭痛:出産直後は悪化しやすい/授乳は“保護的”

産後の片頭痛はどうなる?
• 出産直後は一時的に増悪しやすいです。
• 出産後、エストロゲン濃度が急激に低下するため、産後1週間以内に片頭痛が一時的に再発する方が多く、再発率は多くの研究で50%以上と報告されています。
• 育児による睡眠不足、不安、生活リズムの変化といったストレス要因も影響します。

産後は「ホルモンの急降下」に加えて、生活の激変が重なる時期です。
片頭痛がある方にとって、最も波が荒れやすいタイミングの一つと言えます。
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授乳は片頭痛にどう影響する?
• 授乳(母乳育児)は、片頭痛の再発を防ぐ“保護的な効果”があるとされています。
• 授乳で分泌されるプロラクチンが排卵を抑制し、エストロゲンの急激な変動(月経周期の再開)を抑えるためです。
• 人工乳で育てる女性の方が、母乳で育てる女性よりも産後の再発が起こりやすいことが示唆されています。

授乳そのものが「片頭痛の薬」ではありませんが、結果としてホルモン変動の再開が遅れ、片頭痛の再燃を抑える方向に働く可能性があります。
ただし、授乳期は睡眠不足が強い方も多く、そこが発作の引き金になる場合は、別の対策が必要です。


5. この時期に避けるべき薬・使える薬(妊活/妊娠/授乳)

ここは混乱しやすいので、まずは大枠から共有します。
• 妊活中・妊娠中・授乳期の片頭痛治療では、非薬物療法が第一選択です。
• それでも薬が必要な場合は、時期に応じて比較的に安全性の高い薬剤を選択し、胎児や乳児へのリスクを最小限に抑えます。
• そして、妊娠が判明した(または可能性がある)時点で、直ちに中止/切り替えを検討すべき薬があります。
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5-1. 妊活中(妊娠準備期)
避けるべき薬剤
• 予防薬
✓ バルプロ酸(デパケンなど):胎児の奇形、発達障害リスク増加と強く関連
✓ トピラマート:口唇口蓋裂、胎児の成長遅延(低出生体重)の可能性
✓ ACE阻害薬・ARB(カンデサルタン、リシノプリルなど):胎児の腎毒性などのリスク
• 最近の薬剤
✓ CGRP関連製剤(エムガルティ、アジョビ、アイモビーグなど):安全性
→データ不足+半減期が長い(妊娠数ヶ月前から中止推奨)

妊活中は「妊娠していないから大丈夫」ではありません。妊娠が成立し、気づかない時期(ごく初期)に曝露が起こる可能性があるため、妊活の段階で“中止すべき薬剤を予め避けておく設計”が重要になります。

使用(切り替え)可能な薬剤
• 急性期治療
✓ アセトアミノフェン(第一選択)
✓ 中等度〜重度では スマトリプタンなどのトリプタンも検討
• 予防薬(必要な場合)
✓ プロプラノロールなどのベータ遮断薬
✓アミトリプチリン(低用量)
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5-2. 妊娠中
内服可能な薬剤
• 急性期治療(第一選択):アセトアミノフェン(全期間で最も安全性が高い)
• 急性期治療(第二選択):スマトリプタン(トリプタンの中で安全データが最も多い)
• 予防薬(重症の場合に考慮)
✓プロプラノロールなどのベータ遮断薬
✓アミトリプチリン(低用量)

妊娠中は「必要最小限の用量を最短期間」が基本です。
そのため、頻度・重症度に応じて“頓用中心でいけるか/予防が必要か”を見極めます。
注意が必要な薬剤
• NSAIDs(イブプロフェン、ナプロキセンなど)
○ 妊娠初期:流産リスクの可能性が示唆されています
○ 妊娠20週以降:基本的に使用を避けることが推奨されます
- 胎児の腎機能障害による羊水過少のリスク
- 胎児の動脈管早期閉鎖のリスク
○ やむを得ず20週~28週未満で短期使用(2~3日以内)が必要な場合:
- 医師の厳重な管理のもとで
- 最小有効量・最短期間に限定
- 羊水量の超音波モニタリングが必要
○ 妊娠28週以降(第3三半期):禁忌
妊娠中のNSAIDs使用は原則として推奨されません。

避けるべき薬剤
• エルゴタミン製剤(クリアミンなど)/DHE:子宮収縮・子宮血流低下により、流産・胎児低酸素・奇形リスク
• アスピリン(高用量):第3三半期で母体・胎児の出血リスク
• オピオイド/バルビツール酸:依存性や新生児の呼吸抑制などのリスク
• ブタルビタール含有薬:心臓の奇形(例:ファロー四徴など)リスクと関連の報告

妊娠中に「避けるべき薬」は、母体だけでなく胎児の循環や発達に影響しうるため、原則として選択肢から外します。
特にエルゴタミン系は、片頭痛薬として古くから知られますが、妊娠中は明確に避けるべきものです。
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5-3. 授乳中
内服可能な薬剤
• 急性期治療
✓アセトアミノフェン:母乳移行が少なく安全性が高い
✓ イブプロフェン:母乳移行が非常に少なく安全性が高い
• トリプタン
✓ スマトリプタン:母乳移行がごくわずかで比較的安全。添付文章上は「本剤投与後12時間は授乳しないことが望ましい」との記載あり。

• 予防薬
✓プロプラノロール

授乳中は「母乳にどの程度移行するか」が重要になります。
そのため、母乳移行が少ない薬を選び、必要に応じてタイミングを工夫することが現実的な対応になります。
避けるべき薬剤
• エルゴタミン製剤:乳児に嘔吐・下痢・けいれんの可能性/母乳分泌抑制の恐れ
• アスピリン(高用量):乳児のライ症候群リスクの懸念
授乳中は「赤ちゃんへの影響」と「母乳への影響(分泌が落ちるなど)」の両方を考えます。
その点において、エルゴタミン系は授乳中も避けるべき薬として位置付けられます。


6. 薬を使わない選択肢(非薬物療法):3つの柱

妊活中・妊娠中・授乳期における片頭痛管理では、胎児や乳児への薬剤の影響を避けるため、非薬物療法が治療の柱(第一選択)になります。
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6-1. ライフスタイルの改善(生活習慣の調整)
• 睡眠:睡眠不足も寝すぎも避け、規則正しく
• 食事:欠食(特に朝食抜き)を避ける
• 水分:脱水を防ぐ
• ストレス:緊張をほどく時間を意識的に作る
• 運動:過度ではない定期的な運動習慣
片頭痛は「起きやすい状態(しきい値が下がった状態)」が続くと、些細な刺激でも発作が起こりやすくなります。
生活リズムを整えることは、片頭痛の“土台”を安定させる行為です。
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6-2. 行動療法(心身へのアプローチ)
• 認知行動療法(CBT):ストレス対処・考え方の整理
• リラクゼーション:筋弛緩法、自律訓練法、瞑想など

片頭痛は「痛み」だけでなく、痛みへの不安や緊張が次の発作を呼び込むことがあります。
行動療法は、その悪循環を断ち切るための有力な選択肢です。
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6-3. 妊娠中の特別な処置:後頭神経ブロック
• 後頭神経ブロック:局所麻酔薬(リドカインなど)を後頭部の神経周囲に注入する処置
• 局所作用であるため、妊娠中や授乳中も比較的安全に行えるとされています
薬で全身に作用させるのではなく、局所で痛みの回路を落ち着かせる発想です。
「薬を増やしたくないが、発作が強くて困っている」という方に、検討されることがあります。
非薬物的アプローチを「ダムの補強工事」に例えるなら、薬が「溢れ出した水を汲み出す作業(発作への対処)」であるのに対し、生活の調整や行動療法は、ダムの堤防そのものを高く頑丈にして、多少の雨(ストレスや体調変化)でも溢れない状態を目指す方法です。


7. 妊活・妊娠・授乳の違いを整理

妊活中・妊娠中・授乳中の片頭痛管理の比較表

項目 妊活中(妊娠準備期) 妊娠中 授乳中
症状の傾向 月経に関連した片頭痛が継続する可能性がある。 多くの人で中期・後期に改善(特に前兆のない片頭痛)。 出産直後は悪化しやすいが、授乳は再発を抑える保護的効果がある。
急性期治療薬
(推奨)
アセトアミノフェン。 アセトアミノフェン(第一選択)。
スマトリプタン(中等度〜重度)。
アセトアミノフェン、イブプロフェン。
スマトリプタン。
急性期治療薬
(注意・禁忌)
受精直後のNSAIDsは流産リスクの懸念がある。 妊娠中のNSAIDsは基本的にお勧めできません。 エルゴタミン製剤、高用量アスピリン
(ライ症候群リスク)は避ける。
予防薬
(推奨)
可能な限り中止。
必要ならプロプラノロールなど。
基本は非薬物療法。
重症ならプロプラノロール、低用量アミトリプチリン。
プロプラノロール。
絶対避けるべき薬
(禁忌)
バルプロ酸、トピラマート、
CGRP関連製剤(中止して数ヶ月空けることが望ましい)。
バルプロ酸、トピラマート
(催奇形性・発達遅延)、エルゴタミン、カンデサルタン。
エルゴタミン製剤、リチウム。
非薬物療法・その他 ライフスタイルの改善、
後頭神経ブロックなどの検討。
睡眠・食事・ストレス管理が不可欠。
後頭神経ブロック。
睡眠不足の解消。

重要なポイントの補足
• 鍵は「エストロゲンが安定するかどうか」
妊娠中に軽快しやすいのは、エストロゲンが高値で安定し、急激な低下(離脱)が起きにくくなるためです。
• 薬物療法は常に「最小限を最短で」
どの時期でも原則は共通です。
• 非薬物療法が優先される理由
胎児や乳児への曝露を避ける必要があるため、生活調整や局所的な神経ブロックが重要な選択肢になります。


8. 片頭痛とピル(経口避妊薬):注意点

「前兆のある片頭痛」と脳卒中リスク:最重要ポイント
• ピル使用で最も注意が必要なのが、前兆のある片頭痛です。
前兆のある片頭痛の方が混合ピルを使用すると、脳卒中(脳梗塞)のリスクが有意に高まることが報告されています。
• CDCやフランス頭痛学会などのガイドラインでは、前兆のある片頭痛に混合ピルは原則「禁忌」とされています。本邦の添付文書でもエストロゲンが含有されているピルは「前兆のある片頭痛」で禁忌、「そのほかの片頭痛」でも慎重投与となっています。添付文章上は慎重投与でも特に35歳以上では避けることが望ましいと考えます。
• さらに、35歳以上・喫煙・高血圧・肥満などがあると、リスクが相乗的に高まります。
薬の飲み合わせ(相互作用)
• トピラマートを高用量で服用している場合、エストロゲンベースのピルの効果が弱まり、避妊に失敗する可能性があるため注意が必要です。
詳しい解説
片頭痛治療と避妊の設計は「別々の話」ではなく、同時に整合性を取る必要があります。
特に妊活の前段階では、この点を含めて整理しておくと安心です。


Q and A

妊活中・妊娠中・授乳中で、片頭痛が良くなったり悪くなったりするのはなぜですか?

片頭痛は、女性ホルモン(特にエストロゲン)の変動と密接に関係しています。とくに「エストロゲンが急激に低下すること」が片頭痛の強い引き金になりやすいとされています。妊活中、妊娠中、出産後、授乳期はホルモン環境が大きく変わるため、その影響で片頭痛の出方が変わりやすくなります。

妊活中の片頭痛は、妊活そのもので悪化するのでしょうか?

妊活そのものが直接片頭痛を悪化させるわけではありません。ただし、妊娠が成立するまでは月経周期が続くため、エストロゲン低下に伴う月経時片頭痛は引き続き起こる可能性があります。妊活中は「妊娠に向けた薬の整理」という意味で、片頭痛管理が重要な時期になります。

妊娠中は片頭痛が良くなると聞きましたが、本当ですか?

はい、多くの方で妊娠中は片頭痛が軽快します。報告によると、片頭痛を持つ女性の約50〜80%が妊娠中期から後期にかけて発作頻度の減少を経験し、前兆のない片頭痛では妊娠後期に最大80%が寛解に至るとされています。

なぜ妊娠中は片頭痛が改善しやすいのですか?

妊娠中はエストロゲンの血中濃度が月経周期の30〜40倍まで上昇し、その高い状態が安定して続きます。月経周期で起こるような「エストロゲンの急激な低下」がなくなるため、片頭痛の引き金が減り、症状が軽快しやすくなります。

妊娠中でも片頭痛が続いたり悪化することはありますか?

あります。とくに「前兆のある片頭痛」は、妊娠中でも改善しにくい傾向があります。また、妊娠初期までに片頭痛が改善しない場合は、妊娠期間を通して症状が続く可能性が高いとされています。

出産後は片頭痛はどうなりますか?

出産後はエストロゲン濃度が急激に低下するため、産後1週間以内に片頭痛が一時的に再発・悪化する方が非常に多いとされています。再発率は50%を超えるとの報告が散見され、睡眠不足や育児によるストレスも影響します。

授乳は片頭痛に影響しますか?

授乳(母乳育児)は、片頭痛の再発を抑える方向に働くと考えられています。授乳により分泌されるプロラクチンが排卵を抑制し、エストロゲンの急激な変動(月経再開)を遅らせるためです。人工乳で育てる方のほうが、母乳育児の方よりも産後の片頭痛が再発しやすいことが示唆されています。

妊活中や妊娠中に、特に注意すべき片頭痛の薬はありますか?

あります。バルプロ酸やトピラマート、ACE阻害薬・ARB、CGRP関連製剤などは、胎児への悪影響が問題となるため、妊活中から中止や切り替えが必要です。また、フィーバーフュー(ナツシロギク)などのサプリメントも、妊活中・妊娠中・授乳中は避けるべきとされています。

妊娠中にトリプタンは使えますか?

アセトアミノフェンで効果不十分な場合、必要に応じてトリプタンの使用が検討されます。その中で、最も安全性が高いと考えられ、第一選択として推奨されているのがスマトリプタンです。豊富な妊娠中使用データがあり、胎児への影響が少ないと考えられています。

妊活中・妊娠中・授乳中でも予防薬を使うことはありますか?

あります。片頭痛の頻度や重症度が高く、日常生活に大きな支障が出る場合には、安全性を考慮したうえで予防薬を検討します。この時期に検討されることがあるのは、ベータ遮断薬(プロプラノロールなど)や三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)です。ただし、使用には禁忌や時期ごとの注意点があり、必ず医師と相談しながら判断します。


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下高井戸脳神経外科クリニックは、東京都杉並区・世田谷区・渋谷区西部を中心に、京王線(下高井戸・明大前・桜上水・千歳烏山・上北沢・八幡山・芦花公園・笹塚・代田橋)、京王新線(幡ヶ谷・初台)、東急世田谷線(松原・山下・宮の坂)、小田急線沿線(代々木上原・東北沢・下北沢・世田谷代田・梅ヶ丘・豪徳寺)、渋谷区西部(上原・大山町・西原・本町)から通院しやすい立地にある脳神経外科専門クリニックです。
頭痛・めまい・しびれ・脳梗塞後の経過観察などを中心に、日本脳神経外科学会専門医である院長が、診察から検査結果の説明まで一貫して対応しています。
初診枠をご予約のうえご来院いただいた場合、症状と診察所見から医学的に必要と判断され、かつMRI検査の禁忌事項がない場合には、当日中にMRI検査および結果説明が可能です(土曜日も17時開始枠まで初診予約が可能です)。
詳しいアクセス方法は、サイト内のアクセス案内をご覧ください。
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参考文献一覧

本記事は、下記の参考文献を参照して作成致しました。

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本記事の執筆者について


本記事は、下高井戸脳神経外科クリニック院長であり、
日本脳神経外科学会専門医・医学博士の 髙橋 里史 が執筆しています。
国際的な総説論文・標準的教科書に基づき、
専門的な内容を一般の方にも分かりやすく整理しています。

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