片頭痛の薬は“合う・合わない”で選ぶ時代へ
片頭痛治療の全体像を整理されたい方は、あわせて以下の過去のブログ記事も参考にしてください。
一つ目の記事
「片頭痛の薬、頓用と予防どちらが正解?」
では、片頭痛の治療における「頓用」と「予防」の役割の違いを整理し、近年登場した新しい治療選択肢(ナルティーク®など)も含めて、どのような場合に予防治療を考えるべきかを解説しています。
二つ目の記事
「頭痛―片頭痛の急性期治療と予防的アプローチ」
では、片頭痛の基本的な考え方から、注意すべき危険な頭痛(二次性頭痛)の見分け方、急性期治療と予防治療をどのように組み立てていくかについて、全体像をまとめています。
片頭痛の薬は“効く・効かない”ではなく、“合う・合わない”で選ぶ時代へ

こちらのブログは、片頭痛の急性期治療薬(発作が起きた時に使用する薬)をどのように選ぶかについて、できるだけ分かりやすく、かつ実際の診療で役立つ視点から解説する記事です。
片頭痛の治療では、「痛い時に飲む薬(頓用薬)」だけで良いのか、それとも「発作を起こりにくくする治療(予防)」を組み合わせるべきかで迷われる方が少なくありません。急性期治療薬の使い分けを理解するためには、まず片頭痛治療全体の考え方を押さえておくことが大切です。
これらを踏まえた上で、本記事では、
トリプタン系薬剤、ジタン系薬剤、ゲパント系薬剤といった片頭痛急性期治療薬について、
• それぞれの薬の特徴
• 効果の速さや持続性の違い
• 使えない人(禁忌)や注意すべき飲み合わせ
• 生活背景(仕事、運転、既往症)を考慮した実践的な使い分け
を、できるだけ丁寧に解説していきます。
「どの薬を出されているか」ではなく、
「なぜその薬が選ばれているのか」をご理解いただけることを目標に、片頭痛急性期治療の考え方を整理していきます。
片頭痛の急性期治療薬は、ざっくり言うと次の4系統です。
• アセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などの鎮痛薬
• トリプタン(スマトリプタン/ゾルミトリプタン/リザトリプタン/エレトリプタン/ナラトリプタン)
→ 血管を収縮させる作用があるため、心筋梗塞・狭心症・脳梗塞/一過性脳虚血発作などがある方には原則使えません。
• ジタン(レイボー=ラスミジタン)
→ 血管収縮を起こさない。ただし眠気・めまいが出やすく、服用後の運転等が制限されます。
• ゲパント(ナルティーク=リメゲパント)
→ 血管収縮なし。急性期治療と予防(発症抑制)の両適応があるのが大きな特徴です。
そして「どれを選ぶか」は、主に以下の5つの軸で決まります。
1. 速さ(どれだけ早く効いてほしいか)
2. 持続(ぶり返しをどれだけ避けたいか)
3. 吐き気(飲み薬が吸収されるか)
4. 血管リスク(心臓・脳の持病があるか)
5. 併用薬・生活(β遮断薬、抗菌薬、運転の有無など)
下高井戸脳神経外科クリニックでできること
下高井戸脳神経外科クリニックでできること-急性期治療薬の“最適化”
当院では、急性期治療薬を「ただ処方する」のではなく、
• 片頭痛かどうか(一次性頭痛)を確認し、必要に応じてMRIを用いて危険な頭痛(二次性頭痛)を除外
• 生活背景(仕事・運転・通勤)と、既往歴(心疾患・脳血管障害等)、併用薬(β遮断薬、抗菌薬、抗うつ薬等)を踏まえて薬を選択
• 「効かない理由」を、タイミング(早期内服か)、用量、剤形、胃の動き(胃排出遅延)、薬剤乱用頭痛(MOH)などから整理
• 頭痛のぶり返しが多い方には、急性期薬の選び直し+必要に応じて予防治療の組み立て
を行い、“その人の勝ちパターン”を作るお手伝いを致します。
目次
- 1. 片頭痛の急性期治療:基本戦略(層別治療)
- 2. トリプタン(5剤)の共通点:強い味方だが“使えない人”がいる
- 3. 各薬剤の特徴(7製剤:トリプタン5+レイボー+ナルティーク)
- 4. 片頭痛急性期治療薬における内服のタイミングの原則
- 5. 各薬剤の比較表(速さ・持続・剤形・注意点・効果発現までの時間)
- 6. 相互作用(飲み合わせ)と禁忌:ここが注意事項の核心です
- 7. 片頭痛のタイプ別:実践的な使い分け
- 8. 薬剤の使用過多による頭痛(MOH):回数ルールは必ず守る
- Q&A
- 受診をお考えの方へ
- 参考文献
- 本記事の執筆者について
各論
1. 片頭痛の急性期治療:基本戦略(層別治療)
以前は「まず鎮痛薬→ダメなら強い薬」というステップケアが多かったのですが、現在は「最初から生活支障度に合わせて選ぶ」層別治療(stratified care:最初から適切な強さを選ぶ方針)が重視されるようになってきています。
• 軽度:アセトアミノフェン/NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬=ロキソプロフェンやイブプロフェン等)
• 中等度〜重度:トリプタン、または血管リスクがあればレイボー/ナルティーク
• 吐き気が強い・朝からピーク:点鼻や(状況により)他の手段
急性期治療の理想ゴールは、
急性期治療薬使用から2時間以内に痛みが消え、24時間ぶり返さない(One and Done)ことです。
2. トリプタン(5剤)の共通点:強い味方だが“合わない人”がいる
トリプタンの良いところ
• 片頭痛に対する「切れ味」が良い(効く人が多い)
• 早期に使うほど効果が出やすい(“痛みがピークに達する前”が勝負)
重要:トリプタンが原則使えないケース(代表)
• 虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞など)
• 脳血管障害(脳梗塞、TIA:一過性脳虚血発作 など)
• コントロール不良の高血圧
• 末梢動脈疾患 など
こういう方には、血管収縮を起こさない
レイボー(ジタン)、ナルティーク(ゲパント)が重要な選択肢になります。
トリプタン系薬剤に特有の症状(トリプタンセンセーション:triptan sensations)について
トリプタン系薬剤を服用した後に、
胸部や喉の締め付け感、圧迫感、不快感などを自覚することがあります。
これらの症状は、一般に 「トリプタンセンセーション」 と呼ばれています。
初めて経験されると「心臓の病気ではないか」と強い不安を感じる方もいますが、
多くの場合は一過性で、重篤な心疾患によるものではないことが分かっています。
トリプタン特有の副作用:トリプタンセンセーションとは何か
トリプタン現象とは、トリプタン系薬剤の服用後、比較的短時間のうちに出現する特有の自覚症状の総称です。
主に以下のような症状が報告されています。
• 締め付け感・圧迫感
胸部、喉、首、肩、顎などに感じることがあります
• 感覚の違和感
チクチクする感じ、しびれ、熱感、冷感、感覚が鈍い感じなど
• 全身症状
倦怠感、脱力感、動悸、めまい、眠気 など
これらは多くの場合、数分〜30分程度で自然に軽快する一過性の症状です。
胸部症状が出ると心筋梗塞(心臓の血流障害)を心配されがちですが、
健康な心機能を持つ方では、実際に心筋虚血を起こしているケースは極めて稀であり、
非虚血性(一時的な神経・筋の反応)と考えられています。
トリプタンセンセーションの発現頻度
発現頻度は、薬剤の種類や投与方法(飲み薬・注射など)によって異なります。
• 経口薬
臨床試験では、おおよそ 1〜7%前後 に胸部症状などが報告されています。
• 皮下注射(スマトリプタン自己注射)
効果発現が非常に速い一方で、血中濃度の立ち上がりが急なため、
胸部症状の頻度はやや高く、3〜10%程度と報告されています。
多くは軽度〜中等度で、時間とともに自然に消失します。
トリプタンセンセーションが出にくいとされる薬剤
トリプタン系薬剤の中でも、副作用の出やすさには差があることが知られています。
• ナラトリプタン(アマージ®)
他のトリプタンと比べて、トリプタンセンセーションを含む副作用の頻度が低いとされています。
半減期(体内から薬が減っていく時間)が比較的長く(約5時間)、
効果の立ち上がりが緩やかなため、急激な血中濃度変化が起こりにくいことが理由と考えられます。
• (参考)アルモトリプタン、フロバトリプタン
海外では、これらも副作用が比較的少ないトリプタンとして知られていますが、
日本では未承認のため処方できません。
一方で、
• リザトリプタン(マクサルト®)
• エレトリプタン(レルパックス®)
などは、効果発現が速く有効性が高い反面、
用量が多い場合(例:エレトリプタン40mg)では副作用が出やすくなる傾向があります。
トリプタン・センセーション(トリプタン特有の感覚症状)が出た場合の対応
トリプタン・センセーションへの対応の中で最も重要なのは、事前の説明と適切な判断であると考えています。
1. 事前に説明し、安心してもらうこと
「一時的で、重篤な心臓病によるものではないことが多い」
とあらかじめお伝えしておくことで、不安による症状増悪を防ぐことができます。
2. 薬剤の変更を検討する
あるトリプタンで症状が強く出ても、
別のトリプタンに変更すると問題なく使えることは少なくありません。
(例:リザトリプタン → ナラトリプタン)
3. 血管収縮を起こさない薬への切り替え
締め付け感が強く耐えられない場合や、
心臓・脳の血管疾患の既往がある場合には、
ラスミジタン(レイボー®) や リメゲパント(ナルティーク®) といった
血管を収縮させない新しい作用機序の薬剤が有力な選択肢となります。
これらの薬剤では、トリプタン特有の締め付け感は原則生じません。
大切なポイント
トリプタンセンセーションは、
• 珍しい副作用ではない
• 多くは一過性で重篤ではない
• 薬剤選択や調整で回避できることが多い
という特徴があります。
「症状が出た=危険」「もう使えない」と自己判断せず、
症状の内容や強さを医師に伝えることが、最適な治療につながります。
3. 各薬剤の特徴(7製剤:トリプタン5+レイボー+ナルティーク)
A. トリプタン系(5剤)
① スマトリプタン(イミグラン等)
ポイント:日本で唯一“点鼻”と”注射”があるトリプタン
• 剤形:錠剤、自己注射、点鼻
• 強み(特に点鼻):
✓吐き気が強い/胃が動いていない時でも使いやすい
✓ 口から飲まないので、吸収がブレにくい
• 臨床で向くタイプ:
✓朝起きた瞬間から痛い
✓吐き気が強い/飲むと吐いてしまう
✓「まず確実に効かせたい」発作
注意:注射は効果が強い分、胸部圧迫感など“トリプタン・センセーション”が出やすい傾向があります(多くは一過性)。
② ゾルミトリプタン(ゾーミッグ等)
ポイント:OD錠(水なしで飲める)が便利だが味が苦手な方も
• 剤形:錠剤、OD錠
• 強み:
✓外出先や悪心(吐き気)がある時でも服用しやすい
• 向くタイプ:
✓ 「水が飲めない場面が多い」
✓ 痛みが中等度以上で、トリプタンが適応の人
③ リザトリプタン(マクサルト等)
ポイント:即効性寄り。ただし“β遮断薬(プロプラノロール)”と併用不可なので注意
• 剤形:錠剤、OD錠
• 強み:
✓ 経口トリプタンの中では「早く効く」側として使われやすい
• 超重要な注意:
✓プロプラノロール(インデラル)と併用禁忌(血中濃度が上がってしまう)
✓ 片頭痛予防でβ遮断薬を使っている方は、ここを必ず確認
④ エレトリプタン(レルパックス等)
ポイント:再燃(ぶり返し)が少ない“持続型エース”。ただしCYP3A4相互作用が強い
• 剤形:錠剤
• 強み:
✓ 「翌日にぶり返す」「1回で終わらない」タイプで評価されやすい
• 重要な注意(相互作用):
✓ グレープフルーツジュースは避ける(CYP3A4阻害で血中濃度↑)
✓マクロライド系抗菌薬(例:クラリスロマイシン等)など、CYP3A4阻害薬にも注意
⑤ ナラトリプタン(アマージ等)
ポイント:半減期が長く“ぶり返しが少ない”代表格。効き始めは穏やかだが計画的に使いやすい
• 剤形:錠剤(通常 2.5mg)
• 特徴(薬物動態):
✓ 半減期が約5時間と、トリプタンの中では長い部類
• 用法の要点:
✓ 効果不十分時の追加は4時間以上あける(添付文書ベース)
• 強み:
✓ ぶり返し(再燃)が問題になる人で使いやすい
✓ 月経関連片頭痛など、「一定期間続くタイプ」の発作で選ばれやすい
• 弱み(誤解されやすい点):
✓ “即効性だけ”を求めると物足りないことがある
✓ただし「ぶり返しで何度も薬を足す」より、結果的に満足度が高い方がいらっしゃいます
B. 血管収縮を起こさない新しい選択肢(2剤)
⑥ レイボー(ラスミジタン)
ポイント:血管収縮なし。トリプタン禁忌の方の大事な選択肢。ただし眠気・めまいと“運転制限”が最大の注意点
• 分類:ジタン(5-HT1F受容体作動薬)
✓ 5-HTはセロトニンの受容体(神経伝達のスイッチ)で、1Fは血管収縮に関与しにくいタイプ
• 強み:
✓心筋梗塞・脳梗塞などの既往でトリプタンが使えない人に使える
• 注意(生活上かなり重要):
✓ 眠気・めまいが出やすく、投与後の運転能力への影響が懸念されている
✓レイボー服用後は、自覚症状がない場合でも客観的な指標で運転能力への影響が認められています(投与90分後)。このため、服用後は自動車の運転など危険を伴う機械の操作を避けることが添付文書で推奨されています。臨床試験では、投与8時間後以降には運転能力への影響が認められなくなったとのデータがありますが、個人差もあるため、少なくとも服用当日は運転を控えることをお勧めします。運転再開のタイミングについては、担当医とご相談ください。
⑦ ナルティーク(リメゲパント)詳しくはこちら(以前のブログ記事です)
ポイント:血管収縮なし。急性期治療+予防(隔日投与)という“二刀流”
• 分類:ゲパント(CGRP受容体拮抗薬)
✓ CGRPは片頭痛の病態に深く関与する神経ペプチド(痛み・炎症・血管反応に関与)
✓ それを受け取る「受容体」をブロックします
• 用法の要点(添付文書ベース):
✓ 急性期:発作時に75mg
✓ 予防:75mgを隔日
✓ ただし1日75mgを超えない
• 強み:
✓ 臨床試験では、服用後2時間で効果が発現し、48時間後まで痛みが再発しない割合が高かったと報告されています(半減期:約11時間)
✓ 血管収縮がないので血管リスクのある方にも使いやすい
• 注意:
✓ CYP3A4関連(抗生物質・抗真菌薬・グレープフルーツ・一部サプリ)やP-gp関連(ベラパミル、ジルチアゼム(心臓・血圧の薬)アミオダロン(不整脈の薬)クラリスロマイシン)の相互作用(強い阻害薬など)に注意
✓ “何でも飲める万能薬”ではなく、併用薬の確認は重要
4. 片頭痛急性期治療薬における内服のタイミングの原則
片頭痛の急性期治療において、内服のタイミングは薬剤の種類を問わず共通して極めて重要です。
基本原則は、「頭痛発現後、できるだけ早期に服用すること」です。
痛みがピークに達する前、あるいは痛みがまだ軽いうちに服用することで、
• 2時間後の疼痛消失率
• 日常生活機能の早期回復
• 痛みのぶり返し(再燃)の抑制
といった点で、最大限の治療効果が得られることが知られています。
4-1. トリプタン系薬剤の内服タイミング
(スマトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタン)
• 内服の基本タイミング:
「片頭痛の頭痛が出現した時点」で服用します。
• Act when Mild(軽いうちに行動する)の原則:
頭痛がまだ軽度の段階、あるいは発作発現後1時間以内に服用した場合、
有効率が最も高くなることが複数の臨床研究で示されています。
• 服用が遅れた場合の問題点:
痛みが中等度〜重度まで進行してから服用すると、
・効果が弱くなる
・効き始めが遅れる
・追加内服が必要になる
といった事態が起こりやすくなります。
前兆期(閃輝暗点など)での服用について
原則として、前兆期にトリプタンを服用しても、その後に出現する頭痛を予防する効果はないとされています。
4-2. レイボー(一般名:ラスミジタン)の内服タイミング
• 内服のタイミング:
片頭痛発作時に服用します。
• 臨床試験での条件:
国内外の臨床試験では、
片頭痛発現後4時間以内、かつ
頭痛の重症度が中等度または重度の時点で服用することが条件とされていました。
• 実臨床での考え方:
試験上は中等度以上での服用が設定されていましたが、
実際の診療では、他の急性期治療薬と同様に、発作後できるだけ早期に服用する方が効果的と考えられています。
• 重要な注意点:
服用後は自動車の運転や危険を伴う作業を避ける必要があるため、
その後の予定を考慮したうえで服用タイミングを決めることが重要です。
4-3. ナルティーク(一般名:リメゲパント)の内服タイミング
• 急性期治療として使用する場合:
片頭痛発作時に服用します。
• 効果発現の特徴:
早い人では60分〜90分で効果が認められ、
効果は最大48時間持続するとされています。
• 予防(発症抑制)目的で使用する場合:
症状の有無にかかわらず、「隔日(2日に1回)」で定期的に服用します。
4-4. NSAIDsおよびアセトアミノフェンの内服タイミング
• 対象となる発作:
軽度から中等度の片頭痛発作。
• 内服のタイミング:
頭痛が軽いうち、できるだけ早期に服用することが推奨されます。
• 小児・思春期の場合:
痛みが軽度の段階、あるいは頭痛発症後できる限り早期に、
十分量を1回で使用することが重要とされています。
4-5. 注意事項:薬剤の使用過多による頭痛(MOH)への配慮
どの薬剤であっても、
月に10日以上(NSAIDs単剤の場合は15日以上)の使用を
3ヶ月以上続けると、
逆に頭痛が悪化・慢性化する
薬剤の使用過多による頭痛(Medication Overuse Headache:MOH)
を招くおそれがあります。
服用頻度が高い場合は、
急性期治療薬を追加・増量するのではなく、
予防療法の導入を検討することが重要です。
5. 比較表
各薬剤の比較表1
| 薬剤名 | 分類 | 剤形(日本) | 速さの目安(Tmax) | 持続の目安(半減期) | 血管収縮 | 代表的な“向く状況” | 重要注意 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| スマトリプタン | トリプタン | 錠・点鼻・注射 | 注射/点鼻は速い | 約2h | あり | 吐き気強い、朝から、速効性 | 血管リスク禁忌。点鼻は国内で存在 |
| ゾルミトリプタン | トリプタン | 錠・OD | 中等度 | 約3h | あり | 水なしで飲みたい、外出時 | 血管リスク禁忌 |
| リザトリプタン | トリプタン | 錠・OD | 速い側 | 約1.6h | あり | 速く効かせたい | プロプラノロール併用禁忌 |
| エレトリプタン | トリプタン | 錠 | 速い側 | 3–5h | あり | ぶり返しを減らしたい | グレープフルーツジュース回避・CYP3A4相互作用 |
| ナラトリプタン | トリプタン | 錠 | 穏やか | 約5h ( | あり | ぶり返しが多い、持続型 | 追加は4時間以上 |
| レイボー | ジタン | 錠 | 中等度 | 約4h | なし | 血管リスクあり | 運転等に影響 |
| ナルティーク | ゲパント | OD | 中等度 | 約11h | なし | 血管リスク、急性期+予防 | 急性期/予防の用法・1日上限 |
※「Tmax=効き始めの速さの目安」「半減期=持続の目安」
各薬剤の比較表2 薬剤別:効果発現・最高濃度到達までの時間
薬剤や投与経路(注射、点鼻、経口)によって、効果の現れるスピードには大きな差があります。
| 薬剤名(一般名) | 投与経路 | 最高濃度到達時間 (Tmax) | 臨床的な効果発現・有意差の確認 |
|---|---|---|---|
| スマトリプタン | 自己注射 | 約10〜12分 | 投与30分後には明確な改善 |
| 点鼻液 | 約1〜1.3時間 | 内服より速く、15〜30分で発現 | |
| 経口錠 | 約1.5〜2時間 | 30分〜1時間後から有意な効果 | |
| リザトリプタン | 経口/OD錠 | 約1時間〜1.3時間 | 経口薬の中で最も速い部類 |
| エレトリプタン | 経口錠 | 約1時間〜1.2時間 | 1時間程度で効果を発揮 |
| リメゲパント | OD錠 | 約1.5時間〜1.75時間 | 60〜90分後から有意な効果 |
| ラスミジタン | 経口錠 | 約1.5時間〜2.5時間 | 30分〜1時間後に効果発現 |
| ゾルミトリプタン | 経口/OD錠 | 約1.5時間〜3時間 | 30分で軽減、1時間で有意な改善 |
| ナラトリプタン | 経口錠 | 約2時間〜3時間 | 発現が最も緩徐 |
| ジクロフェナク | 経口液剤 | 約15分(水溶性) | 非常に速やかな吸収 |
投与経路によるスピードの違い
• 自己注射(スマトリプタン): 消化管を介さないため、全薬剤の中で圧倒的に速く(約10分)ピークに達し、重症の発作時や嘔吐がある場合でも確実な効果が期待できます。
• 点鼻薬: 鼻粘膜から直接吸収されるため、内服薬(Tmaxが1時間以上)よりも速やかに(15〜30分程度)効果を発揮し始めます。
• 経口錠・OD錠: 一般的に効果実感まで1時間程度を要します。リザトリプタンやエレトリプタンは比較的吸収が速く設計されていますが、ナラトリプタンは効果の現れ方が穏やかで、即効性よりも持続性を重視する薬剤です。
その他の薬剤(NSAIDs・アセトアミノフェン)
• アセトアミノフェン・イブプロフェン: 通常、服用後2時間以内に痛みの消失や軽減が得られることが一般的です。
6. 相互作用(飲み合わせ)と禁忌:ここが注意事項の核心です
① 「トリプタンは脳梗塞・心筋梗塞はだめ」
理由は明快で、トリプタンは血管収縮を起こし得るからです。
血管がすでに狭い/詰まりやすい状態の方では、リスクが上がる可能性があり、原則禁忌になります。
② エレトリプタン × グレープフルーツジュース
• グレープフルーツジュースは肝臓や腸の代謝酵素(CYP3A4)を阻害し、血中濃度を上げることがあります。
• そのため、エレトリプタンはグレープフルーツジュースを避けるが実務上わかりやすいルールです。
③ リザトリプタン × β遮断薬(プロプラノロール)
• 片頭痛予防で使うことがあるβ遮断薬(プロプラノロール)が、リザトリプタンの血中濃度を上げてしまうため、併用禁忌です。
• 「片頭痛の薬同士」で起こる典型的な落とし穴です。
④ トリプタン/レイボー × SSRI/SNRI(抗うつ薬)
トリプタン系薬剤やレイボー(一般名:ラスミジタン)と、
SSRI/SNRI(抗うつ薬)の併用については、しばしば不安の声が聞かれますが、
これらは「併用禁忌」ではなく「併用注意」に分類されています。
なぜ注意が必要なのか
トリプタンやレイボーはセロトニン受容体に作用し、
SSRI/SNRIは脳内のセロトニン濃度を上昇させるため、
併用によりセロトニンの作用が過剰となり、セロトニン症候群
(不安、興奮、動悸、発熱、手の震え、下痢など)を起こす可能性が理論上指摘されています。
実際の臨床では
• 国内の添付文書では、
すべてのトリプタン製剤およびレイボーで「併用注意」と記載されています。
• FDA(米国食品医薬品局)は2006年に注意喚起を行いましたが、
実際の発症頻度は極めて低いことがその後の研究で示されています。
• 片頭痛とうつ病・不安障害は併存しやすく、
実臨床では慎重な経過観察のもと併用されることが一般的です。
併用中に注意すべき症状
併用中に、
不安・興奮、手の震え、発汗、発熱、動悸、下痢などの症状が出た場合は、
速やかに医師へ相談し、薬剤の中止や調整を行う必要があります。
まとめ
トリプタン系薬剤やレイボーとSSRI/SNRIは、
併用禁忌ではありませんが、体調変化に注意しながら慎重に使用することが必要です。
過度に恐れる必要はありませんが、自己判断での併用・増量は避け、
必ず医師の管理下での使用が重要です。
⑤ ナルティーク(リメゲパント)× CYP3A4/P-gp関連
• 併用薬が多い方ほど、相互作用の確認が重要です。
• 特に“強い阻害薬”の併用は実務上注意が必要です。
7. 片頭痛のタイプ別:実践的な使い分け
タイプA:とにかく早く頭痛を改善したい(速効性最優先)
• 候補:スマトリプタン(点鼻/注射)、リザトリプタン
• コツ:痛みが軽いうちに(“完全に固まる前”)使う
タイプB:一度治ってもぶり返す(再燃が最大の悩み)
• 候補:ナラトリプタン、エレトリプタン、ナルティーク
• 考え方:
✓ 「速さ」より「1回で終わる」ことの価値が高い場合
タイプC:吐き気が強い・飲めない/朝からピーク
• 候補:スマトリプタン点鼻(日本で点鼻がある)
• 補助:制吐薬の併用や、水分・休息も含めてプラン化
タイプD:心臓・脳の血管が心配(トリプタンが使えない)
• 候補:レイボー、ナルティーク
• ただし:
✓ レイボーは運転制限があるので、通勤や仕事の形とセットで選ぶ
✓ 「服用当日は運転・危険作業を避ける」
タイプE:急性期薬の回数が増えてきた(MOHが心配)
• 「薬が悪い」のではなく、
発作回数が多い=予防の出番になっていることが多いです。
• ナルティークは“予防適応”もあるため、戦略として組みやすい
8. 薬剤の使用過多による頭痛(MOH):回数ルールは必ず守る
• トリプタン・レイボー・ナルティークなど:月10日以上の頻回使用が続くと、MOHのリスクが上がります(一般的目安)
• 鎮痛薬(NSAIDsなど):月15日以上
「効くから飲む」→「回数が増える」→「頭痛が増える」
のループに入る前に、急性期薬の整理+予防治療を検討します。
Q and A
トリプタンは“どれが一番強い”ですか?
一概に順位はつけにくいです。大事なのは「あなたの発作の型」に合っているか。速さ重視ならスマトリプタン点鼻/注射、ぶり返し重視ならナラトリプタンやエレトリプタン、血管リスクがあるならレイボー/ナルティーク…というように、軸が違います。
服用タイミングはいつがベスト?
多くの急性期薬は、痛みが軽いうちの方が効きやすいです。特にトリプタンは「我慢してピークに達してから」だと効きが落ちることがあります。
吐き気が強いと、OD錠でもダメですか?
OD錠は“口の中で溶ける”だけで、吸収は主に腸です。吐き気が強い人では吸収が不安定なことがあり、その場合はスマトリプタン点鼻など“胃を回避する手段”が有利です。 (
レイボーはなぜ運転がダメなの?眠くなければ良い?
いいえ、眠気やめまいを感じなくても運転は避けてください。
レイボー服用後は、自覚症状がない場合でも客観的な指標で運転能力への影響が認められています(投与90分後)。このため、服用後は自動車の運転など危険を伴う機械の操作を避けることが添付文書で推奨されています。
臨床試験では、投与8時間後以降には運転能力への影響が認められなくなったとのデータがありますが、個人差もあるため、少なくとも服用当日は運転を控えることをお勧めします。運転再開のタイミングについては、担当医にご相談ください。
ナラトリプタンは“効くのが遅い”なら使う意味が薄い?
ぶり返しが多い人では、速さよりも「1回で終わる」価値が高く、結果的に満足度が上がることがあります。半減期が約5時間と長めで、持続性が武器です。
受診をお考えの方へ
下高井戸脳神経外科クリニックは、東京都杉並区・世田谷区・渋谷区西部を中心に、京王線(下高井戸・明大前・桜上水・千歳烏山・上北沢・八幡山・芦花公園・笹塚・代田橋)、京王新線(幡ヶ谷・初台)、東急世田谷線(松原・山下・宮の坂)、小田急線沿線(代々木上原・東北沢・下北沢・世田谷代田・梅ヶ丘・豪徳寺)、渋谷区西部(上原・大山町・西原・本町)から通院しやすい立地にある脳神経外科専門クリニックです。
頭痛・めまい・しびれ・脳梗塞後の経過観察などを中心に、日本脳神経外科学会専門医である院長が、診察から検査結果の説明まで一貫して対応しています。
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参考文献
本記事は、下記の参考文献を参照して作成致しました。
1. 日本神経学会, 日本頭痛学会, 日本神経治療学会, 監修. 頭痛の診療ガイドライン2021. 東京: 医学書院; 2021.
2. グラクソ・スミスクライン株式会社. ナラトリプタン塩酸塩錠(アマージ錠2.5mg)医薬品インタビューフォーム. 2025年3月改訂(第12版).
3. ファイザー株式会社. リメゲパント硫酸塩水和物OD錠(ナルティークOD錠75mg)医薬品インタビューフォーム. 2025年12月改訂(第3版).
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7. ヴィアトリス・ヘルスケア合同会社. スマトリプタンコハク酸塩錠(スマトリプタン錠50mg「VTRS」)医薬品インタビューフォーム. 2024年9月改訂(第8版).
8. ヴィアトリス・ヘルスケア合同会社. ゾルミトリプタン口腔内崩壊錠(ゾルミトリプタンOD錠2.5mg「VTRS」)医薬品インタビューフォーム. 2024年10月改訂(第8版).
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本記事の執筆者について
本記事は、下高井戸脳神経外科クリニック院長であり、
日本脳神経外科学会専門医・医学博士の 髙橋 里史 が執筆しています。
国際的な総説論文・標準的教科書に基づき、
専門的な内容を一般の方にも分かりやすく整理しています。


