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物忘れ、認知症について

脳疾患の解説

物忘れに関するまとめ ― 加齢に伴う物忘れ・MCI・認知症の違いと下高井戸脳神経外科クリニックでの対応について

「最近、物忘れが増えた」「人の名前が出てこない」——多くの方が気にされることではないでしょうか。
年を重ねるとともにどなたにでも起こりうる現象ですが、その中には治療が必要な認知症の初期サインが隠れていることもあります。
ここでは、物忘れの種類や原因、加齢による物忘れと認知症との違い、そして当クリニックでの「物忘れ」に対する検査・治療の流れについて詳しくご説明します。


① 物忘れとはどのような症状か

記憶障害は、「記銘(覚える)」「保持(覚え続ける)」「再生(思い出す)」という3つの要素で成り立っています。
このうち、どの段階に障害があるかによって、症状の現れ方が異なります。

保持時間による分類

  • 即時記憶:1分以内で保持される記憶。数字の順唱など。
  • 近時記憶:数分から数カ月以内の記憶。アルツハイマー病の初期に障害されやすい。
  • 遠隔記憶:過去の出来事に関する記憶。末期に障害されることが多い。

内容による分類

  • 陳述記憶:個人的体験(エピソード記憶)や知識(意味記憶)。
  • 非陳述記憶:体で覚える記憶(例:運動技能、楽器演奏など)。

アルツハイマー型認知症(AD)の約9割では、特に近時記憶エピソード記憶が障害されます。
典型的には「同じことを何度も聞く」「物の置き場所を忘れる」といった置き忘れが見られます。


② 当院での鑑別診断と検査

下高井戸脳神経外科クリニックでは、物忘れや認知症の診断を次の手順で行います。

鑑別の考え方

最初に重視するのは、治療可能な認知症(treatable dementia)を見逃さないことです。
甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症など、適切な治療で改善が見込める疾患をまずは丁寧に除外します。

実施する検査

  • 認知機能検査:MMSE(Mini-Mental State Examination)、HDS-R、CDRなどを用いて、記憶・注意・言語・遂行機能を評価します。
  • 血液検査:甲状腺刺激ホルモン(TSH)、ビタミンB1・B12などを測定します。
  • MRI検査:脳腫瘍・脳梗塞・慢性硬膜下血腫・水頭症などの有無を確認。特に当院ではVSRAD解析により、アルツハイマー病で萎縮しやすい海馬・側頭葉内側の萎縮度を定量的に評価します。

③ 加齢による物忘れと認知症の違い

特徴 加齢による物忘れ 認知症による物忘れ
忘れる内容 体験の一部を忘れる(ヒントで思い出せる) 体験全体を忘れる(ヒントでも思い出せない)
自覚 忘れっぽさを自覚している 自覚が乏しい(病識欠如)
日常生活 影響なし 支障が出る
判断力 保たれる 低下する
進行性 緩やか 徐々に進行
見当識 時間・場所・人を理解できる 時間→場所→人の順に障害される
人格 維持される 変化することがある

④ 治療可能な物忘れ(treatable dementia)

以下のような疾患では、原因治療により症状の改善が期待できます。

  • 慢性硬膜下血腫:MRIで確認し、必要に応じて外科的治療を検討。
  • 正常圧水頭症:小股歩行や尿失禁、認知症の三徴を認める場合に疑い、MRIで評価(冠状断でDESHと呼ばれる所見の有無も確認)。
  • 甲状腺機能低下症・ビタミン欠乏症:血液検査で診断し、低下や欠乏を認める場合には改善を目指してホルモン補充やビタミン投与を行います。

⑤ MCI(Mild Cognitive Impairment 軽度認知障害)とは

MCIは、正常と認知症の中間段階です。
日常生活は保たれているものの、「同じことを何度も尋ねる」「約束を忘れる」「新しい家電の操作に時間がかかる」などの症状がみられます。
早期に発見して介入することで、認知症への進行を遅らせたり、改善することも可能です。
特にアルツハイマー病由来のMCI(MCI due to AD)は、抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ・ドナネマブ)の対象となります。


⑥ 主な認知症の種類と特徴

主な認知症は以下のように分類されます。症状やMRI所見をもとに種類を鑑別していきます。

病型 原因・病態 主な特徴
アルツハイマー型認知症(AD) アミロイドβやタウ蛋白の異常蓄積 初期から近時記憶障害が目立つ。緩徐に進行。
脳血管性認知症(VD) 脳梗塞や脳出血の後遺 思考の緩慢さ、遂行機能障害。階段状に悪化。
レビー小体型認知症(DLB) αシヌクレインの異常蓄積 認知の変動、幻視、パーキンソニズム。抗精神病薬に過敏。
前頭側頭型認知症(FTD) 前頭葉・側頭葉の萎縮 人格変化・脱抑制・常同行動。初期は記憶障害が軽い。

⑦ 認知症の予防と生活習慣

世界保健機関(WHO)は、認知症の予防に次の生活習慣を推奨しています。

  • 定期的な運動(有酸素運動・筋トレ)
  • 読書・会話・趣味などの知的・社会的活動
  • 地中海食などの健康的な食事

地中海食は、脳の血管障害や酸化ストレス、炎症を抑える効果があるとされ、アルツハイマー病や脳血管性認知症の発症リスクを減らすことが示唆されています。
特に、オリーブオイルのポリフェノールや魚のDHA・EPA、野菜や果物に含まれる抗酸化物質が、神経細胞を保護すると考えられています。

  • 高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理
    (当院では脳卒中予防、認知症予防も念頭に生活習慣病の管理を行っています)
  • 禁煙・節酒、うつ病・難聴の治療

中年期からこれらを意識することが、将来の認知機能低下のリスク軽減につながります。


⑧ 認知症の治療

治療は「認知機能低下の進行を遅らせる」ことと「生活の質(QOL)の維持」を目的とします。

アルツハイマー型認知症(AD)

  • コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)
  • NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)
  • 抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ、ドナネマブ)—病態修飾効果が期待されます。

レビー小体型認知症(DLB)

  • ドネペジルが有効。抗精神病薬は慎重に使用。
  • 抗精神病薬の中ではクエチアピンが慎重に使われる場合があります。
  • パーキンソニズムにはL-DOPA、REM睡眠行動異常症にはクロナゼパムやメラトニンが用いられます。

脳血管性認知症(VD)

  • 生活習慣病の管理(高血圧・糖尿病・脂質異常症の是正)。

前頭側頭型認知症(FTD)

  • SSRIなどで行動症状を緩和。コリンエステラーゼ阻害薬は推奨されません。

⑨ レカネマブ・ドナネマブとは

アルツハイマー型認知症の薬である抗アミロイドβ抗体についてご質問を受ける機会が増えておりますので、こちらにまとめます。

項目 レカネマブ ドナネマブ
作用 可溶性アミロイドβ凝集体を除去 アミロイドβ凝集体を除去
対象 軽度認知障害(MCI due to AD)または軽度認知症 同左
効果 進行を約27%抑制(18か月間) 約29%抑制
投与 2週ごと点滴静注 4週ごと点滴静注
副作用 ARIA(脳浮腫・微小出血) 同上
注意 APOEε4キャリアではARIAリスクが高く、定期MRIでの確認が必須

 

当院では投与そのものは行っていませんが、適応の可能性につきご相談に乗り、専門機関への紹介を行っています。投与の可否は専門機関で追加の検査を含め再度検査を行って頂いた後に専門機関の医師が決定します。
また、抗アミロイドβ抗体は比較的症状が軽度のうちに開始することと、脳出血を起こしやすいため、5個以上の脳微小出血脳表ヘモジデリン沈着症又は1cmを超える脳出血が確認された場合は対象外になるという制約があります。
MMSEによる認知機能評価微小出血を含めた頭蓋内出血性病変の評価は当院でも可能です。(実際に投薬する場合には一般的に当該医療機関で同じ検査を再度行う必要があります)


⑩ まとめと当院での診療の流れ

認知症診療では、まず加齢による物忘れとの鑑別が重要です。
早期に発見し、適切な治療・生活指導を行うことで、長く自立した生活を維持できる可能性があります。

下高井戸脳神経外科クリニックでは、

  • 初回受診:詳細な問診・診察・採血・MRI検査
  • 再診時:検査結果の説明・必要に応じた投薬開始

最低2回の受診が必要になります。
また、介護保険申請やご家族のご相談にも対応し、医療と社会的支援の両面からサポートいたします。ご予約はこちらから。

写真はイメージです


よくあるご質問(Q&A)

加齢による物忘れと、認知症による物忘れの違いは何ですか?

加齢による物忘れは体験の一部を忘れるのみで、ヒントがあれば思い出せます。認知症では体験全体を忘れ、ヒントを与えても思い出せず、日常生活にも影響します。

下高井戸脳神経外科クリニックでは、どのような検査を行いますか?

当院では、MMSE・HDS-R・CDRなどの認知機能検査、血液検査(甲状腺・ビタミンなど)、MRI検査を組み合わせて評価します。MRIではVSRAD解析を行い、アルツハイマー型認知症に特徴的な海馬の萎縮度を定量的に分析します。

アミロイドPET検査や脳脊髄液検査は受けられますか?

当院では実施していませんが、必要に応じて専門医療機関への紹介状を作成いたします。

MCI(軽度認知障害)は治りますか?

MCIは「健常」と「認知症」の中間段階で、生活習慣の改善により症状が改善・回復することもあります。早期発見と介入が極めて重要です。

レカネマブやドナネマブによる治療は受けられますか?

下高井戸脳神経外科クリニックではこれらの抗体薬の点滴治療は行っていませんが、適応の可能性を評価し、明らかな適応外と判断しない限り治療施設への紹介を行います。

どのような生活習慣が認知症の予防に効果的ですか?

定期的な運動、知的・社会的活動、地中海食、高血圧・糖尿病の管理、禁煙・節酒、うつ病や難聴の治療などが推奨されています。

物忘れの診療の流れは?

初回で問診・診察・採血・MRIを行い、2回目で結果説明・投薬開始が可能です。介護保険申請やご家族の相談も承ります。

費用はどのくらいかかりますか?

物忘れが認められ、保険診療で診察および検査を行った場合の目安は、初回検査時は(3割負担で)1万円前後2回目は1,000円前後となります。

※ 実際のご負担額は、負担割合(1~3割)や実施する検査内容・処方、各種加算、紹介状・画像CD作成の有無などにより前後します。詳細は窓口でご確認ください。

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