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めまいでお困りの方へ

脳疾患の解説

脳梗塞など“危険なめまい”(中枢性めまい)と耳からのめまい(耳性めまい)の見分け方

 

―― 「脳の病気」と「耳からのめまい」を見分けるために

「急に視界がぐるぐる回った」「ふわふわしてまっすぐ歩けない」――
めまいは、日常診療でも非常に多くみられる症状です。成人の生涯有病率は 7〜8% 前後とされ、救急外来受診理由としても年間数百万件に上ると言われています。

その一方で、

  • 耳のトラブルから来る“比較的良性”なもの
  • 首や肩こり、薬の影響によるもの
  • そして 脳梗塞・脳出血など命に関わる「中枢性めまい」

が同じ「めまい」という言葉の中に混在していることから慎重な診断と治療が必要になります。
下高井戸脳神経外科クリニックでは、まず「脳から来る危険なめまい」を見逃さないことを最優先に、そのうえで耳性・頚性・薬剤性などの原因を整理しながら治療方針を立ててまいります。

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1. まず「めまい」という言葉の中身を整理しましょう

―― vertigo と dizziness の違い

患者さんが「めまいがします」とおっしゃるとき、その内容は大きく3つに分けられます。

① 回転性めまい(Vertigo)

  • 周囲がぐるぐる回っている感じ
  • 自分の体が回転している感じ

→耳の奥にある「三半規管」や、それにつながる前庭神経の異常で起こることが多く、
良性発作性頭位めまい症(BPPV)・前庭神経炎・メニエール病などがその代表的な疾患です。
一方で、耳の構造は正常でも、前庭性片頭痛(Vestibular Migraine: VM) のように
「前庭情報を処理する脳の働きの乱れ」で回転性めまいが起こることもあります。

② 浮動性めまい・ふらつき(Dizziness)

  • 頭がふわふわする
  • 地に足がつかない感じ
  • まっすぐ歩きにくいが、ぐるぐる回る感じではない

首や肩こりによる頚性めまい、血圧や自律神経の問題、薬の影響などが原因となることがありますが、小脳梗塞や脳幹梗塞などの中枢性めまいでも、同じような「ふわふわ感」「ふらつき」として現れることがあります。
そのため、症状が vertigo(回転感)か dizziness(ふらつき)かという違いだけでは、中枢性か末梢性かを完全に見分けることはできません。「めまいのタイプでの分類」も重要ですが、それだけで全ての整理が付くわけではなく、他の症状や神経学的な所見も総合して診断する必要があります。

③ 立ちくらみ・意識が遠のきそうな感じ(失神前状態)

  • 立ち上がった瞬間に目の前が暗くなる
  • 気を失いそうな感じがする

→心臓のリズムの異常である不整脈や起立性低血圧、脱水など、血圧や循環の問題が背景にあることが多い症状で、これも患者さんは「めまい」と表現されることがあります。

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2. めまいは「どこが原因か」で考えます

―― 中枢性・耳性・頚性・全身性・薬剤性

● 中枢性めまい(脳から来るめまい)【最も緊急性が高い】

  • 小脳・脳幹など、脳のバランス中枢の異常

代表的な原因

  • 小脳梗塞・脳幹梗塞
  • 脳出血
  • 多発性硬化症
  • パーキンソン病・多系統萎縮症などの変性疾患
  • 脳腫瘍 など

多くの場合、

  • ろれつが回りにくい(構音障害)
  • 手足の力が入りにくい・しびれる
  • ものが二重に見える(複視)
  • 座っていられないほど体幹がふらつく

といった「めまい以外の神経症状」を同時に伴います。

● 耳性(末梢性)めまい

  • 三半規管・耳石器・前庭神経など「耳の平衡器官」が原因

主な疾患

  • 良性発作性頭位めまい症(BPPV)
  • 前庭神経炎(Vestibular Neuritis: VN)
  • メニエール病(MD)
  • 突発性難聴に伴うめまい
  • 外リンパ瘻、迷路炎、聴神経腫瘍 など

多くの場合、眼振(目の揺れ)を伴います。病態によっては耳鳴り・難聴が出ることもあります。

● 中枢性前庭障害(前庭性片頭痛など)

  • 耳の構造そのものではなく、前庭情報を処理する脳(中枢)の働きの乱れで起こるタイプ
  • 代表が 前庭性片頭痛(Vestibular Migraine: VM)

→一般人口レベルでは、BPPVに次いで2番目に一般的なめまいの原因とされ、
メニエール病患者よりも 5〜10倍多いとの報告もあります。

● 頚性めまい

  • 首・肩の筋肉の強い緊張や姿勢の悪さに伴うめまい
  • 軽いふらつき・浮動感が中心で、緊張型頭痛や肩こりとセットになることも多い

● 全身性めまい

  • 起立性低血圧、不整脈、貧血、低血糖など
  • 血圧や血液の状態が原因で起こるもの

● 薬剤性めまい

  • 特に高齢の方では、薬が関わるめまいが全体の2割以上に上るとする報告もあります。
  • 耳に毒性を持つ薬(アミノグリコシド系抗生物質など)、睡眠薬・抗不安薬など、さまざまな薬剤が原因となりえます。

この中で、脳神経外科医として最も注意しているのが「中枢性めまい」です。

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3. まず知っていただきたい「中枢性めまい」

―― 脳梗塞・脳出血など、場合によっては命に関わり得るめまい

めまい診療でもっとも大切なのは、
このめまいは「脳から来ているのか」
それとも「耳や首から来ているのか」
を見極めることです。

● 中枢性めまいが疑われるサイン

次のような症状がある場合は、小脳梗塞・脳幹梗塞などの可能性を強く疑います。

  • まっすぐ座っていられない、立てないほどの体幹のふらつき
  • 手足の力が急に入りにくくなった、しびれが急に出た
  • ろれつが回りにくい
  • ものが二重に見える
  • 縦や斜め、左右で性質の異なる眼振(目の揺れ)が見られる

このような場合には、拡散強調画像(DWI)を含む頭部MRI と MRA(血管の検査)による検査が非常に有用です。
CTでは初期の小さな脳梗塞が描出されないことも多いため、CTとMRIを両方持つ医療機関においても可能であればMRIが優先されます。
下高井戸脳神経外科クリニックでは、中枢性めまいが疑われる場合は、可及的速やかに頭部MRI検査を実施する方針としております。

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4. 代表的な「5つのめまい疾患」のまとめ

ここからは、耳や前庭の異常、あるいは首の緊張として現れる代表的な5つの病気を扱います。

  1. 良性発作性頭位めまい症(BPPV)
  2. 前庭神経炎(VN)
  3. メニエール病(MD)
  4. 前庭性片頭痛(VM:中枢性前庭障害)
  5. 頚性めまい

まずは全体像をつかみやすいように各疾患の「典型エピソード」「頻度」「治療と予後」のまとめを提示し、そのあとで再度各論を説明します。

4-1. 5疾患の「典型エピソード」「頻度」「治療と予後」まとめ

良性発作性頭位めまい症 (BPPV)

【架空症例】
60代女性。「朝、布団の中で寝返りを打って上を向いた瞬間、激しい回転性のめまいに襲われ、吐きそうになった。めまいは10秒ほどで治まり、じっとしていると平気だが、再び頭を動かすとまた回った。」耳鳴りや難聴はない。

【頻度】
めまい疾患の中で最も頻度が高いとされます。生涯有病率は約2.4%、一般病院ではめまい患者の半数近くがBPPVという報告もあります。

【治療法】
主要な治療法は、耳石置換法(Canalith Repositioning Manoeuvers: CRP/PRM)です(Epley法、Semont法、Gufoni法など)。半規管内に迷い込んだ耳石を、本来の位置(卵形嚢)に戻すための体位変換です(下高井戸脳神経外科クリニックでは2025年12月現在耳石置換法は施行できません)。必要に応じて、ベタヒスチン、前庭抑制薬(ジメンヒドリナート)、抗不安薬(エチゾラム)などを補助的に用います。

【予後】
一般に予後良好な「良性」疾患です。多くは数日〜数週間で自然軽快し、理学療法で治癒します。1年以内の再発率は15〜18%、3年間では30〜50%程度とされ、特に女性・高齢者・精神疾患を併発している方で再発リスクが高いとされています。

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前庭神経炎 (VN)

【架空症例】
40代男性。数日前に風邪の症状があった後、突然、強烈な回転性めまいが発症し、2日以上持続している。立ち上がると患側に倒れそうになり、強い嘔気と嘔吐を伴う。難聴や耳鳴りといった聴覚症状は全くない。

【頻度】
末梢性前庭障害の中で、BPPV・メニエール病に次いで3番目に多いとされます。年間発症率は人口10万人あたり約3.5〜15.5人。

【治療法】

  1. ステロイド(メチルプレドニゾロンなど):半規管麻痺の回復を促進する可能性があり、発症早期に投与を検討します。抗ウイルス薬は有効性が乏しく、通常は用いません。
  2. 対症療法:急性期には制吐薬(ジフェニドールなど)や抗ヒスタミン薬、ベンゾジアゼピン系薬剤などで吐き気・めまいのつらさを抑えます。
  3. 前庭リハビリテーション(VR):急性期を過ぎてから、バランス機能の回復を促すために重要です。

【予後】
一般に予後良好で、激しいめまいは数日でピークを過ぎ、残存症状も数週間〜3か月程度で徐々に回復します。再発は2〜11%と比較的まれです。

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メニエール病 (MD)

【架空症例】
50代女性。仕事のストレスが溜まっていたとき、突然、激しい回転性のめまいが発作的に起こり、3時間ほど持続した。発作時には耳が詰まったような感覚(耳閉感)と低い音の耳鳴りがあり、聴力も低下したように感じた。このような発作を数回繰り返している。

【頻度】
末梢性めまいの中ではBPPVに次いで2〜3番目に多い疾患の1つです。有病率は人口10万人あたり50~200例程度とされています。発作性めまい全体で見ると、VMより少ないと考えられています。

【治療法】

  1. 急性期:高度なめまい発作では入院のうえ、めまい・吐き気に対する点滴治療(メトクロプラミドなど)や抗不安薬(ジアゼパムなど)を用います。難聴が高度な場合は、突発性難聴に準じてステロイドを投与することもあります。
  2. 間欠期(予防):浸透圧利尿薬(イソソルビド)による内耳の水ぶくれ(内リンパ水腫)の軽減、ベタヒスチンの短期投与(3か月以内)、塩分制限・規則正しい生活・ストレスコントロールなどを行います。薬物治療でコントロール困難な場合は、中耳加圧治療や内リンパ嚢開放術など、耳鼻科での外科的治療が検討されます。

【予後】
慢性の再発性疾患であり、発作を繰り返すうちに聴覚症状が変動しながら難聴が進行し、不可逆的となることがあります。一方、適切な治療と生活調整により、日常生活を大きく制限されずに過ごせる方も多くいらっしゃいます。

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前庭性片頭痛 (VM)

【架空症例】
30代女性。以前から拍動性の頭痛があり、光や音に敏感になることが多い。最近、数分〜数時間(ときに数日)にわたる浮動性〜回転性のめまいを繰り返しており、めまい発作の半数以上で頭痛や光・音過敏を伴う。頭を動かす動作や、動くものを見ることでめまいが誘発されることがある。

【頻度】
自発性発作性めまいの中で最も多い原因と考えられており、めまい障害全体ではBPPVに次いで2番目に多い疾患です。一般人口における生涯有病率は1〜5%と推定され、VM患者はメニエール病患者の5〜10倍多いとされています。女性に多く、30〜50代が中心です。

【治療法】

  1. 予防療法:発作頻度が高い場合、片頭痛予防薬(Ca拮抗薬:ロメリジンなど、β遮断薬:プロプラノロール、抗てんかん薬:トピラマート・バルプロ酸、抗うつ薬:アミトリプチリンなど)を用います。
  2. 急性期治療:頭痛を伴う場合はトリプタン系薬剤(ゾルミトリプタンなど)。めまい・吐き気に対しては前庭抑制薬や制吐薬を用います。
  3. 非薬物療法:誘発因子(睡眠不足・ストレス・断食・特定の食物など)の回避や、前庭リハビリテーション(VR)も有効です。

【予後】
慢性疾患であり、「完全に治って二度と出ない」というより、発作の頻度・強さを減らしていく“付き合い方の病気”と考えられます。VRは薬物療法に反応しにくい患者さんでも有用な場合があります。

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頚性めまい

【架空症例】
50代男性。慢性的な肩こりや緊張型頭痛に悩まされており、特に長時間パソコン作業をした後などに頭がふわふわするような浮動感を自覚する。回転性めまいや耳鳴り、難聴はない。頚を動かしたときや、姿勢が悪いと症状が強くなる。

【頻度】
神経内科外来の浮動性めまい(ふわふわするめまい)の原因の中で、緊張型頭痛・肩こり群が最多(約1/4)を占めるとする報告があります。

【治療法】
頸部筋群の緊張緩和が中心です。

  1. 理学療法:ストレッチ、温熱療法、姿勢指導、必要に応じたリハビリ。
  2. 薬物療法:筋弛緩薬、鎮痛薬、緊張型頭痛に対する治療薬など。職場環境の調整や在宅でのセルフケアも重要です。

【予後】
軽度の浮動性めまいが主で、首・肩の筋緊張や姿勢の改善によって症状が緩和することが多いです。他の重篤な疾患(脳・耳・心臓など)をしっかり除外したうえで、「うまく付き合っていく」ことが大切です。

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5. 各疾患のポイント

ここは、前項をベースにした「おさらい」です。

5-1 良性発作性頭位めまい症(BPPV)

  • 「寝返り」「上を向く」「顔を下げる」など特定の頭の向きで誘発
  • めまいは数秒〜1分以内でおさまる短い発作
  • 耳鳴り・難聴は伴わない
  • 治療は耳石置換法が中心で、予後良好。再発はあるが命に関わる病気ではありません。

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5-2 前庭神経炎(VN)

  • 風邪のあとに、1日以上続く強い回転性めまい+嘔気・嘔吐
  • 耳鳴り・難聴なしがポイント
  • ステロイド+対症療法+前庭リハビリテーション
  • 多くは数週間〜数か月で回復し、再発は少なめです。

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5-2 補足:前庭神経炎をもう少し詳しく

■ 疾患概念(定義)

前庭神経炎は、急性末梢前庭機能障害に起因するめまい発作を特徴とする疾患で、末梢性めまいの中では BPPV やメニエール病に次いで 3 番目に多いとされています。

主な臨床特徴

  • 突然出現する激しい回転性めまい(発症時刻を言えることも多いほど突然なので脳卒中との鑑別が重要になります)
  • 強い吐き気・嘔吐を伴うことが多い
  • 難聴・耳鳴り・耳閉感などの「聴覚症状がない」ことが重要なポイント
  • 強い回転性めまいは 1 日以上続き、2〜3か月で徐々に消退
  • めまいが消えたあとも、頭を急に動かしたときや暗所でのふらつきが長く残ることがある

めまい発作は一般に単発と定義されますが、日本の研究班の集計では、34%で数回の激しい発作や反復例が認められています。好発年齢は 20〜60歳代(平均 30〜40歳)で、性差・左右差はありません。

■ 病態

原因は完全には解明されていませんが、

  • 発症前の感冒症状(上気道感染)が 43〜64%で認められる
  • 側頭骨病理所見がウイルス感染を示唆する
  • 前庭神経にガドリニウム造影効果を認める MRI 所見がある

などから、ウイルス感染や炎症が関与していると考えられています。

日本めまい平衡医学会による前庭神経炎の診断基準

やや専門的な内容になりますが紹介します。

A. 症状(全て必要)

  1. 突発発症の強い回転性めまい(通常は1回)
  2. 発作後も体動・歩行時のふらつきが持続
  3. 難聴・耳鳴り・耳閉感などの聴覚症状がない
  4. 第Ⅷ脳神経以外の神経症状を伴わない

B. 検査所見(全て必要)

  1. 温度刺激検査(カロリック)で一側あるいは両側の末梢前庭機能障害(半規管機能低下)
  2. 自発・頭位眼振検査で方向固定性の水平〜水平回旋混合性眼振(多くは健側向き急速相)
  3. 聴力検査は正常または、めまいと無関係の難聴のみ
  4. メニエール病、小脳梗塞など類似疾患を除外できること
  • これら A+B 全てを満たすと「確実例」
  • A のみ満たすと「疑い例」 とされます。

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5-3 メニエール病(MD)

  • 20分〜数時間続く回転性めまい発作を繰り返す
  • 発作のたびに、片側の耳鳴り・耳閉感・難聴が悪化
  • 内リンパ水腫(内耳の水ぶくれ)が病態の中心と考えられる
  • 浸透圧利尿薬・ベタヒスチン・生活指導などで発作頻度を抑え、難聴進行を防ぐことが目標です。

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5-4 前庭性片頭痛(VM)

  • 数分〜72時間のめまい発作
  • 発作の50%以上で 片頭痛らしい症状(拍動性頭痛・光音過敏・視覚前兆など) を伴う
  • 耳の検査はほぼ正常、「前庭情報を処理する脳側」の一時的な乱れと考えられます
  • 片頭痛の予防薬+発作時治療+生活習慣改善+VRの組み合わせでコントロールしていきます。

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5-4 補足:前庭性片頭痛(Vestibular Migraine: VM)をもう少し詳しく

■ 疾患概念(定義)

前庭性片頭痛(VM)は、
「片頭痛の症状の一つとして生じためまい」
と定義される疾患です。以前は

  • 片頭痛関連めまい(migraine associated vertigo)
  • 片頭痛性めまい(migrainous vertigo)

などと呼ばれていた概念とほぼ同一で、日本では日本頭痛学会が「前庭性片頭痛」という名称を提案しています。
VM の診断基準は 2012 年に Barany Society と国際頭痛学会(IHS)の合意により定められ、現在は国際頭痛分類第3版(ICHD-3)に採用されています。

■ 前庭性片頭痛の診断基準(A〜E)

(分かりやすく抄訳しています)

A. 少なくとも 5 回の「B〜D を満たす発作」がある。

B. 現在または過去に、「前兆のある片頭痛」または「前兆のない片頭痛」の診断基準を満たす。

C. 5分〜72時間続く中等度〜高度の前庭症状(めまい)がある。
前庭症状には、

  • 自発性めまい(体や周囲が回転・流れる感覚)
  • 頭位性めまい(頭の位置を変えたときのめまい)
  • 視覚誘発性めまい(スーパーの棚・スクリーンなど動く映像で悪化)
  • 頭部運動誘発めまい
  • 頭部運動で誘発される嘔気を伴う浮動感

などが含まれます。

D. 前庭発作の少なくとも 50% が、以下の片頭痛徴候のいずれかを伴う。

  1. 以下 4 つのうち少なくとも 2 つを満たす頭痛
    • 片側性
    • 拍動性
    • 中等度〜高度
    • 日常動作によって悪化
  2. 光過敏 および/または 音過敏
  3. 視覚性前兆

※これらの片頭痛徴候は「めまいの前・最中・後」いつ出てもよいとされています。

E. ICHD-3 や他の前庭疾患で説明できない。

■ 重要なポイント

  • 「めまい発作の半分以上に頭痛が必要」という理解は正しくありません。
    必要なのは「頭痛を含む片頭痛徴候」のいずれかです。
  • つまり、めまい発作の 50% 以上で
    光過敏・音過敏だけ
    視覚性前兆だけ
    であっても、診断基準を満たしうる、ということになります。

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■ 前庭性片頭痛疑い(probable VM)

上記の「確実例」には満たないものの、

  • 少なくとも 5 回の中等度〜高度の前庭症状が 5 分〜72 時間続く
  • 片頭痛既往(基準 B)と発作時の片頭痛徴候(基準 D)の どちらか一方のみ を満たす
  • 他の前庭疾患や ICHD の診断に当てはまらない

場合には「前庭性片頭痛疑い」と分類されます。

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■ 治療:急性期治療と予防治療

VM に対して「この薬だけが特効薬」というものはなく、片頭痛治療に準じた方針が取られます。

1)急性期治療(発作時)

  • 頭痛に対して:NSAIDs、トリプタン
  • めまい・嘔気に対して:ベタヒスチン、前庭抑制薬、制吐剤 など

片麻痺性片頭痛や脳幹性前兆を伴う片頭痛に対しては、添付文書上トリプタンは禁忌とされており、特に回転性めまいが診断基準に入って来る脳幹性前兆を伴う片頭痛とは慎重な鑑別が必要です。近年は血管収縮作用の弱いラスミジタンのような 5-HT1 受容体作動薬も治療の選択肢に入ってきています。

2)予防治療(間欠期のコントロール)

  • 生活指導:
    • 睡眠リズムの安定(寝不足も寝過ぎも避ける)
    • ストレスコントロール
    • 強い光・日光・チラつきへの対策(サングラス、帽子など)
  • 薬物療法(片頭痛予防に準じる):
    • Ca拮抗薬:ロメリジン
    • 抗うつ薬:アミトリプチリン
    • 抗てんかん薬:バルプロ酸 など
    • β遮断薬:プロプラノロール
    • 漢方薬:呉茱萸湯 など
  • CGRP 関連薬(CGRP 抗体・受容体抗体)
    重症片頭痛で、3か月以上にわたり月 4 回以上の片頭痛発作が続き、
    既存治療で効果不十分なケースが対象となります。
    当院でも処方可能です。
  • 前庭リハビリテーション(VR)
    VM においても、VR によりめまいの頻度・強さ・生活の質が改善したとの報告があります。

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■ 神経学的な「現在地」を確認しながら航路を引く病気

前庭性片頭痛の治療は、羅針盤を頼りに航路を引くようなものです。

  • まず、VM という「疾患の座標」を診断基準で確認し(現在地の把握)
  • そのうえで、
    • 片頭痛治療薬という「既存の地図」
    • 生活指導という「風や潮の読み方」
    • VR という「操船訓練」

を組み合わせながら、発作という荒波を乗り越え、
最終的に「発作をできるだけ減らし、生活を取り戻す」という目的地を目指す病気といえます。

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5-5 頚性めまい

  • 首こり・肩こり・緊張型頭痛とセットになったふわふわ感
  • 回転性めまいではなく、「何となく不安定」「地に足がつかない感じ」が多い
  • 画像検査で脳や耳に明らかな異常がないことを確認したうえで、姿勢・筋緊張・生活習慣にアプローチしていきます。

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6. 耳性めまいを支える治療:「前庭リハビリテーション(VR)」とは?

耳や前庭神経の異常によるめまいでは、時間とともに脳が「新しいバランスの取り方」を学び直していきます。これを前庭代償といいます。
前庭リハビリテーション(Vestibular Rehabilitation: VR)は、この前庭代償を促すための運動療法で、

  • めまいのつらさを軽くする
  • 目を動かしたときのブレを減らす
  • 立つ・歩くときのバランスを改善する
  • 日常生活での支障を減らす

ことを目的としています。

● どんなことをするのか?

  • 頭を動かしながら目で目標を追う練習(動いても景色がぶれにくいようにする)
  • あえて少しめまいが出る動きを繰り返し、脳に「その刺激に慣れてもらう」
  • さまざまな条件で立ったり歩いたりして、倒れにくいバランスを獲得する

などを、症状や検査結果に合わせて組み合わせていきます。

● 前庭神経炎・前庭性片頭痛などでの役割

  • 前庭神経炎:バランスや歩行の回復を早めることが示されています。「安静にしすぎない」ことが大切で、1日数回・30分程度の運動を行うこともあります。
  • 前庭性片頭痛:薬物療法に加えてVRを行うことで、めまいの頻度・強さ・生活への支障が改善したとの報告があります。

イメージとしては、
「壊れかけた古いナビ(前庭)に振り回されず、新しい地図(視覚や足裏の感覚)を頼りに目的地までたどり着けるよう、脳という司令塔を再教育する訓練」
と捉えていただくと分かりやすいかもしれません。

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7. 下高井戸脳神経外科クリニックのめまい診療

当院では、めまいでご来院された方に対し、

  • 丁寧な問診(症状のタイプ・経過・誘因・既往歴・服薬歴など)
  • 神経学的診察(眼振・脳神経・筋力・感覚・歩行・体幹のバランスなど)
  • 必要に応じた頭部MRI・頸椎MRI
  • 前庭神経炎・前庭性片頭痛などに対する薬物療法

を通じて、

  • 危険な中枢性めまい(脳梗塞・脳出血など)を見逃さない
  • 日常生活でお困りの症状をできるだけ軽くする

ことを目標に診療を行っています。

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8. よくあるご質問(FAQ)

「めまい」が出たとき、すぐに救急を受診した方がいいサインはありますか?

A. 次のような症状があれば、救急受診を強くおすすめします。

  • 立てない・座っていられないほどの強いふらつき
  • 手足の力が入りづらい、しびれが急に出た
  • ろれつが回りにくい
  • ものが二重に見える
  • 激しい頭痛を伴うめまい

これらは、脳梗塞・脳出血などの中枢性めまいの可能性があり、早期のMRI検査と治療が重要です。

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めまいがある人は、全員MRI検査が必要でしょうか?

A. 全員に必須というわけではありませんが、

  • 中枢性めまいを疑う症状がある場合
  • めまいが初発で、危険因子(高血圧・糖尿病・喫煙歴など)がある場合
  • めまい以外にも神経症状が気になる場合

には、頭部MRI(できれば拡散強調画像を含む)が強く推奨されます。
一方、典型的なBPPVなど、問診と診察で耳性めまいとほぼ確定できる場合は、MRIを行わず経過を見ることもあります。

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良性発作性頭位めまい症(BPPV)は、放っておいても治りますか?

A. 多くの場合、時間とともに自然に軽快しますが、

  • 耳石置換法(Epley法など)を行うことで、回復までの時間を短縮できることが分かっています。
  • また、「本当にBPPVでよいのか」「他に危険な病気が隠れていないか」を確認する意味でも、一度は医療機関を受診されることをおすすめします。

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首こりからくる「頚性めまい」は、整体やマッサージだけで治りますか?

A. 首・肩の筋緊張が原因として大きい場合、整体やマッサージが楽にしてくれることはありますが、

  • 頚椎症や椎間板ヘルニアなどの器質的な異常がないか
  • めまいの裏に脳や耳の病気が隠れていないか

を確認しておくことが大切です。
医療機関で一度評価を受けたうえで、必要に応じてリハビリや運動・整体などを組み合わせるのが安全です。

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前庭リハビリテーションは、自分で始めてもいいのでしょうか?

A. ネットなどに自己流の体操が紹介されていることもありますが、

  • 病気のタイプによって「やった方が良い動き」「避けるべき動き」が異なる
  • 初期の強いめまい期には、無理をするとかえってつらくなる場合がある

などの理由から、まずは原因をきちんと診断したうえで、医師の指示やリハビリ専門家の指導のもとで行うことをおすすめします。

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10. 受診をお考えの方へ

下高井戸脳神経外科クリニックは東京都区部西部、京王線(千歳烏山、上北沢、八幡山)、東急世田谷線沿線(松原、山下、豪徳寺)、杉並区南部(下高井戸、永福、和泉、浜田山)、世田谷区北東部(赤堤、松原、羽根木、下北沢、梅が丘、代田)、渋谷区西部(笹塚、幡ヶ谷、代々木上原)からアクセス良好な地域の脳神経外科専門クリニックです。
当日ご来院予定時刻の1時間前まで予約可能な初診枠をご予約のうえご来院頂いた場合、ご希望と必要性があり、検査の禁忌事項がない場合、当日中のMRI検査と日本脳神経外科学会専門医の院長による結果説明が可能です。土曜日午後も17時からの診療枠まで予約が可能です。


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