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PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)とは何か

脳疾患の解説  / めまい

「異常なし」と言われたのに治らないめまい
― PPPDという疾患概念

― 検査で異常が見つからない慢性めまいをどう考え、どう治療するか―

耳鼻科やMRIで「異常はありません」と言われたにもかかわらず、
ふらつきや不安定感が毎日のように続いていることはありませんか。

そのような慢性的なめまいの背景には、
PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)という、
医学的に確立した病態が関与している可能性があります。

PPPDは「気のせい」や「心因性めまい」ではありません。
脳がバランス情報を処理する仕組みが過敏になり、
症状が固定化してしまった状態です。

下高井戸脳神経外科クリニックでできること

当院では、まず脳梗塞・脳出血・腫瘍など、
めまいに関わる脳の器質的な疾患を脳神経外科の立場から出来る限り除外します。

そのうえで、
「MRIでは異常がない」で終わらせるのではなく、
PPPDや加齢性前庭機能低下(PVP)など、
慢性めまいの病態を整理し、
患者さんが納得できる説明と治療方針を大切にしています。

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PPPDとは何か

PPPDは Persistent Postural-Perceptual Dizziness の略で、
日本語では持続性知覚性姿勢誘発めまいと呼ばれます。

2017年に国際めまい学会(Bárány Society)で定義され、
WHOの国際疾病分類(ICD-11)にも正式に収載された疾患です。

PPPDはどのくらい多い病気か(疫学)

PPPDは決して珍しい病気ではありません。
慢性的なめまいを訴えて医療機関を受診する患者さんの中で、
最も頻度の高い原因のひとつとされています。

  • めまい専門外来では慢性めまい患者の約15〜20%
  • 慢性めまい患者の約5人に1人
  • 日本の慢性前庭症候群では約37%を占めたという報告もあります。

好発年齢は40〜50歳代で、
男女比はおおよそ1:2(女性に多い)ことが知られています。

PPPDの診断基準

  • 非回転性めまい・浮動感・不安定感が3か月以上続く
  • 立位・歩行、体の動き、視覚刺激で悪化する
  • めまいの「きっかけ(トリガー)」がある
  • 生活に支障をきたす
  • 他の疾患で説明できない

典型的な症状の特徴

PPPDのめまいは、
「ぐるぐる回る」めまいではなく、
ふわふわする・揺れているような感覚が中心です。

スーパーの陳列棚、人混み、
スマホやパソコン画面などの
視覚刺激で悪化することが特徴です。

PPPDの典型的なエピソード(すべて架空の症例です)

耳の病気は治ったはずなのに(52歳・女性)

Aさんは、52歳の女性です。
ある日突然、目の前が激しくぐるぐる回り、立っていられなくなりました。
吐き気も強く、起き上がることもままなりません。
救急でかかった病院で「前庭神経炎でしょう」と言われ、点滴や薬で治療を受けました。

1週間ほどすると、あの激しい回転性のめまいは確かに治まりました。
医師からも
「もう耳の異常は改善していますよ」
と言われ、ほっとしたのを覚えています。

けれど、それからです。

立っていると、頭がフワフワする。
歩いていると、地面が少し揺れているような気がする。
特にスーパーのレジでじっと立っている時や、人混みを歩く時、
思わず「おっとっと」と体に力が入ります。

検査をしても、異常は見つからない。
「もう治っているはず」と言われるたびに、
自分だけ取り残されたような不安が募っていきました。

買い物やスマホがつらくなった(47歳・女性)

Bさんは47歳の女性です。
寝返りを打つたびにクルッと回るめまいがあり、
良性発作性頭位めまい症と診断されました。

治療を受け、頭の位置を変えるたびにBさんを悩ませていた回転性のめまいは程なく治りました。
ところが、それからしばらくして、別の違和感が始まったのです。

スーパーの陳列棚を見ていると、
頭の中がザワザワして、酔ったような感じになる。
スマホの画面をスクロールすると、
目の奥が疲れて、フワッと不安定になる。

「疲れているだけかな」と思いながらも、
次第に映画館や大型ショッピングモールを避けるようになりました。

まためまいが起きたらどうしよう――
その不安が、いつの間にか行動を狭めていました。

氷の上を歩くような毎日(55歳・男性)

Cさんは、55歳の男性です。
仕事の忙しさと責任が重なる時期に、
突然、強い動悸と息苦しさ、激しいめまいを経験しました。

それ以来、座っている時は比較的楽なのに、
立ち上がって歩き出すと、
まるで氷の上を歩いているような緊張感が毎日続きます。

転びそうで怖い。
だから無意識のうちに、足や腰に力を入れて歩いている。

不思議なことに、実際に転んだことは一度もありません。
周囲からも「普通に歩いているよ」と言われます。

それでも本人の中では、
一歩一歩が常に緊張との戦いでした。

地震は終わったのに揺れが消えない(34歳・女性)

Dさんは、34歳の女性です。
大きな地震を経験してから、
しばらくの間、余震を心配しながら生活していました。

やがて余震も収まりました。
それなのに、自分だけが揺れているような感覚が残りました。

静かな部屋でじっとしていると、
床がわずかに動いているような気がする。
周囲は誰も気にしていないのに、自分だけが感じる違和感。

「気のせいかな」
そう思おうとするほど、不安が大きくなっていきました。

これらのエピソードに共通すること

これらの方々に共通しているのは、

  • 40〜50歳代を中心とした働き盛りの世代

  • 女性が多く、男性も一定数存在する

  • 明確な「めまいのきっかけ」がある

  • 検査では「異常がない」と言われている

という点です。

PPPDは、
決して珍しい病気ではなく、慢性的なめまいの中で最も多い原因のひとつなのです。

検査で異常が出にくい理由

PPPDは脳や耳に「傷」がある病気ではありません。
構造ではなく、脳の情報処理(機能)の問題なのでMRI検査で形としての異常所見が見当たらないことがあるのです。

不安と症状の悪循環

一度強いめまいを経験すると、
脳が過剰に警戒し続け、
症状が固定化してしまうことがあります。

PPPDの治療(集学的治療)

① 診断の共有(治療の第一歩)

「命に関わる病気ではない」「脳のソフトウェアの問題である」
と正しく理解すること自体が、治療の第一歩です。

② 薬物療法(SSRI / SNRI)

  • エビデンスは限定的ですが、SSRI/SNRIが有効との報告があります。
  •  
  • セルトラリン(ジェイゾロフト®)
  • エスシタロプラム(レクサプロ®)
  • ベンラファキシン(イフェクサーSR®)

少量から開始し、効果実感まで8〜12週、
改善後も再発予防のため1年以上継続します。
初期の胃部不快感にはモサプリド(ガスモチン®)を併用します。

③ 前庭リハビリテーション

「動いても大丈夫だ」と脳に学習させ直す治療です。
3〜6か月かけて、無理なく進めます。

④ 認知行動療法(CBT)・ACT

不安・回避行動の悪循環を断ち、
「症状があっても生活を広げる」ことを目指します。

⑤ 新しい治療法

迷走神経刺激(tVNS)、rTMS、tDCSなどの
ニューロモデュレーション研究も進んでいます。

PPPDとPVP(加齢性前庭機能低下)の違い

項目 PPPD PVP
主因 脳の過敏化 加齢性前庭低下
好発年齢 40〜50歳代 60歳以上
治療 再学習+薬物

リハビリ中心

実臨床では両者の鑑別が困難な場合もあります

よくあるご質問(Q&A)

PPPDは「気のせい」や「心因性めまい」なのですか?

いいえ。PPPDは「気のせい」ではなく、脳がバランス情報を処理する仕組みが過敏になり、症状が固定化してしまった状態です。不安は原因ではなく、症状を悪化・固定化させる増悪因子として関与します。

PPPDのめまいは、どんな症状が多いですか?

「ぐるぐる回る」めまいよりも、ふわふわする・揺れているような浮動感、不安定感が中心です。スーパーの陳列棚、人混み、スマートフォンやパソコン画面などの視覚刺激で悪化しやすいことが特徴です。

PPPDはどのくらい多い病気ですか?年齢や性別の傾向はありますか?

PPPDは決して珍しくなく、めまい専門外来では慢性めまい患者さんの約15〜20%(約5人に1人)と報告されています。好発年齢は40〜50歳代で、男女比はおおよそ1:2(女性に多い)とされています。

PPPDはどうして検査(MRIなど)で異常が出にくいのですか?

PPPDは脳や耳に「傷(構造的な異常)」がある病気ではなく、脳の情報処理(機能)の問題です。そのため、MRI検査で形としての異常所見が見当たらないことがあります。

PPPDの治療は何をするのですか?

PPPDは「診断の共有(安心できる説明)」「薬物療法(SSRI/SNRI)」「前庭リハビリテーション」「認知行動療法(CBT)・ACT」を組み合わせる集学的治療が基本です。症状の固定化に関わる不安や回避行動の悪循環を断ち、生活を広げていくことを目指します。

PPPDとPVP(加齢性前庭機能低下)はどう違いますか?

PPPDは脳の過敏化が主因で、好発年齢は40〜50歳代、治療は再学習(リハビリやCBT/ACT)と薬物療法を組み合わせます。一方PVPは加齢による前庭低下が主因で、好発年齢は60歳以上が中心で、治療はリハビリが中心です。実臨床では両者の鑑別が難しい場合もあります。

「めまいのきっかけ(トリガー)」があったか覚えていないのですが、それでもPPPDは考えられますか?

PPPDは「めまいのきっかけ」があることが多いとされていますが、きっかけがはっきりしない場合もあります。症状の経過や悪化パターン(立位・歩行・視覚刺激など)を整理し、他の疾患を除外したうえで総合的に判断します。

下高井戸脳神経外科クリニックでは、どこまで評価できますか?

当院では、まず脳梗塞・脳出血・腫瘍など、めまいに関わる脳の器質的な疾患を脳神経外科の立場から出来る限り除外します。そのうえで、PPPDや加齢性前庭機能低下(PVP)など慢性めまいの病態を整理し、結果のご説明を致します。

 

受診をお考えの方へ

下高井戸脳神経外科クリニックは、東京都杉並区・世田谷区・渋谷区西部を中心に、京王線(下高井戸・明大前・桜上水・千歳烏山・上北沢・八幡山・芦花公園・笹塚・代田橋)、京王新線(幡ヶ谷・初台)、東急世田谷線(松原・山下・宮の坂)、小田急線沿線(代々木上原・東北沢・下北沢・世田谷代田・梅ヶ丘・豪徳寺)、渋谷区西部(上原・大山町・西原・本町)から通院しやすい立地にある脳神経外科専門クリニックです。
頭痛・めまい・しびれ・脳梗塞後の経過観察などを中心に、日本脳神経外科学会専門医である院長が、診察から検査結果の説明まで一貫して対応しています。
初診枠をご予約のうえご来院いただいた場合、症状と診察所見から医学的に必要と判断され、かつMRI検査の禁忌事項がない場合には、当日中にMRI検査および結果説明が可能です(土曜日も17時開始枠まで初診予約が可能です)。
詳しいアクセス方法は、サイト内のアクセス案内をご覧ください。
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参考文献

本記事は、下記の参考文献を参照して作成致しました。

  1. Staab JP. Neurol Clin. 2023.
  2. Eggers SD, Staab JP. Handbook of Clinical Neurology. 2024.
  3. Yagi T, et al. Auris Nasus Larynx. 2024.

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本記事の執筆者について

本記事は、下高井戸脳神経外科クリニック院長であり、
日本脳神経外科学会専門医・医学博士の 髙橋 里史 が執筆しています。
国際的な総説論文・標準的教科書に基づき、
専門的な内容を一般の方にも分かりやすく整理しています。

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